総務省の支援事業

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観光

AIカメラの人流データ、どう分析…専門家がお助け!

岐阜県高山市

データ活用を市施策全体に、さらに地域社会でも

江戸時代の古い町並みが残る岐阜県高山市は、年間を通じて国内外から多くの観光客が訪れています。高山市は、中心市街地の人の流れをAI人物像分析システム(AIカメラ)で計測し、推定された人数や性別、年齢などの人流データを観光施策に生かすとともに、オープンデータとして公開し、商店や宿泊施設など地域の事業者が経営戦略に取り込めるようにしています。こうした高山市の取り組みは、2019年度に総務省の「地域情報化アドバイザー派遣制度」を活用し、アドバイザーを務める名古屋大学大学院情報学研究科の浦田真由准教授から助言を受けて本格化しました。取り組みや地域情報化アドバイザーが果たした役割について、高山市総務部行政経営課の新家誠係長と浦田准教授に聞きました。

名古屋大学大学院の浦田真由准教授と高山市総務部行政経営課の新家誠係長の写真
名古屋大学大学院の浦田真由准教授(左)と高山市総務部行政経営課の新家誠係長

地域情報化アドバイザー派遣制度を活用したきっかけを教えてください。

新家さん 日本三大朝市の一つ「飛騨高山宮川朝市」は、高山市の中心部を流れる宮川沿いで毎日開かれています。朝市を訪れた人に、宮川を挟んだ場所にある商店街を含めてエリア全体を回遊してもらおうと、新たに人専用の人道橋を整備することが決まりました。高山市として人道橋の効果を検証するため、整備の前後で人の流れがどう変わるかについて、AIカメラを使って調べることになりました。そこで設置したのが、「NECソリューションイノベータ株式会社」のAIカメラを活用したAI人物像分析システムです。

しかし、収集した人流データを高山市の職員だけで分析するとなると、知識や経験が足りません。NECソリューションイノベータ株式会社の方に相談したところ、浦田さんを紹介してもらいました。

浦田さん もともと別の地方公共団体の事業で、NECソリューションイノベータ株式会社と接点があり、高山市が行う人流データの分析について相談を受けました。私は総務省が委嘱する地域情報化アドバイザーを務めていましたので、高山市がこの派遣制度を活用し、人流データの分析について関わることになりました。

地域情報化アドバイザー派遣制度の支援の内容とその成果を教えてください。

浦田さん 高山市が実施したAIカメラを用いた人流計測の実証実験で、データ分析におけるアドバイスを行いました。市は人道橋が完成した前後で、人の流れがどう変わるかを調べるために、人道橋近くの商店街の店舗にAIカメラを設置しました。

私が地域情報化アドバイザーとして行ったサポートは、このAIカメラが取得したデータを分析する際のアドバイスです。AIカメラは、取得した画像から年齢や性別などを推定して計測データを記録します。この人流データから、曜日、時間帯ごとや、性別、年齢などの属性別に通行量を分析しました。地域情報化アドバイザーとしては、2019年12月に1回、高山市を訪れ、その後はリモート会議などを通じて支援しました。派遣制度が終了した後も、引き続き必要に応じて協力する体制を築いています。

新家さん 浦田さんにアドバイスをいただき、当初、目的としていた人道橋近くの人流データを分析することができました。その結果、人道橋の設置により、土日、平日ともに商店街を訪れる人が増えていることが分かりました。

今回の取り組みを通じて、そうした客観的なデータを市の政策立案に活用する重要性を実感しました。データを収集・分析して施策を組み立てる手法については、自分たちがやや弱いと感じている部分でした。しかし、浦田さんに助言をいただいた経験が、統計データを政策に反映するEBPM(根拠に基づく政策立案)を進める大きな転機となりました。

飛騨高山宮川朝市で地元産の野菜や果物、特産品が並ぶ様子
「飛騨高山宮川朝市」の様子。地元産の野菜や果物、特産品が並ぶ(高山市で)

地域情報化アドバイザー派遣制度を活用後、どんな変化がありましたか?

新家さん 地域情報化アドバイザー派遣制度を利用したことをきっかけに、2020年10月には、名古屋大学とNECソリューションイノベータ株式会社、高山市の3者で「ICTを活用したまちづくり連携協定」を締結しました。高山市が研究フィールドを提供し、大学が持つ知見、企業の技術を集結させることで地域の課題解決や魅力向上につなげていくことが目的です。また、新型コロナウイルス感染症の国内感染拡大による行動制限の影響やコロナ終息後に観光客数がどのように回復していくのかを定量的に正しく把握するため、高山市内の主な観光スポットにもAIカメラを設置して人流データを収集することにしました。

浦田さん 具体的には、3者連携協定に基づき、2020年以降、NECソリューションイノベータ株式会社のAIカメラを使ってJR高山駅前や古い町並みなどの市内観光スポット計5か所、名古屋大の簡易なAIカメラを使って計9か所の人流データを収集しました。

その結果、土曜日は人の流れが遅い時間まであることがわかり、ある店舗に土曜日の閉店時間を30分延長することを提案して実施してもらったところ、通常の営業時間だった場合と比較して平均で売り上げが7%増え、最大27%増となる成果を得ることができました。

高山市の古い町並みの様子
江戸時代の豪商の屋敷などが現存し、人気の観光地となっている古い町並み(高山市で)

DXを進める体制や、職員や住民の意識にも変化がありましたか?

新家さん 2021年から浦田さんの協力を得て、データに関心のある市民や事業者を対象にAIカメラが取得したデータを事業戦略に活用するためのワークショップを開催しています。このほか、高山市の職員を対象に、名古屋大学の大学院生に講師を務めてもらってデータの分析手法を学ぶ勉強会を開き、データ活用に対する職員の意識を高めることができました。

浦田さん 高山市の職員向けにデータ分析の勉強会を開いてほしいというのは、高山市側からの発案でした。このような形で、高山市では、市職員や地域の方々がデータに触れる機会が増えています。2023年には、名古屋大学の大学院生が講師となって、地元の岐阜県立飛騨高山高校の生徒を対象にしたデータ活用の勉強会も開催。2024年、今度はその飛騨高山高校の生徒がサポート役となって地域の方々と一緒に人流データを分析し、施策を検討するワークショップを行うなど、DXの取り組みの輪が広がりつつあります。

飛騨高山高校の生徒が参加した人流データ分析のワークショップの様子
飛騨高山高校の生徒が参加した人流データ分析のワークショップの様子

まちづくりにデータを活用していくうえで、どんな工夫をされているのでしょうか。

新家さん 最近は商店街の方々が、開催したイベントの効果について人流データを使って自分たちで検証するなど、地域でデータを活用する土壌ができつつあると感じています。2024年秋には、地域社会でDXを推進するための組織として「飛騨高山DX推進官民連携プラットフォーム」を設立しました。市内のいろんな事業者にデータ活用について関心を持ってもらえたらと考えています。行政と地域が一体となった住民目線でのDXの取り組みを進めていきたいです。

浦田さん この事業では当初より、AIカメラで取得した人流データをオープンデータとして市のホームページで公開したことが良い影響を与えているのではないでしょうか。高山市が地域で収集したデータを地元の企業や店舗で活用できる仕組みにしたことで、地域全体でデータを使っていこうという機運を高めやすく、様々な取り組みにつながりつつあるのだと感じています。

AIカメラで取得した人流データをオープンデータとしたことが良い影響を与えていると語る浦田・名古屋大学大学院准教授の写真
「AIカメラで取得した人流データをオープンデータとしたことが良い影響を与えている」と浦田・名古屋大学大学院准教授

地域情報化アドバイザー派遣制度を利用した感想と今後の展望は。

新家さん 地域情報化アドバイザー派遣制度は、今回のようなデータ分析をはじめ、様々な専門家に委嘱されているので、その知見を借りて施策に生かすことができる、非常に使いやすい制度です。地方公共団体の負担がないのもありがたいです。

浦田さんとは、地域情報化アドバイザーとして高山市に来ていただいた後も、3者連携協定を通して、一緒にDXの取り組みを続け、観光分野だけにとどまらず、高山市のまちづくり全体のDX戦略についても助言をいただいています。

高山市では、2025年度から始まる新たなDX計画を作成しているところですが、市民サービス向上や市役所内の仕事の効率化といった自治体DXに加えて、地域社会全体のDX推進を大きな柱にしました。目標とするまちづくりを実現するには、地域の方々と一緒にDXを進めていくことが重要だと実感したからです。

目標とするまちづくりを実現するには、地域の方々と一緒にDXを進めていくことが重要と語る新家・高山市総務部行政経営課係長
「目標とするまちづくりを実現するには、地域の方々と一緒にDXを進めていくことが重要」と新家・高山市総務部行政経営課係長

浦田さん 現在は高山市役所のいろいろな課の方々が、AIカメラから得たデータを活用して施策に役立てようとしています。高山市が地域情報化アドバイザー派遣制度を活用し成果を出したからこそ、ここまでの取り組みにつながっていると思います。派遣制度は高山市の例のように、地域でDXを進めるためのきっかけとして活用し、その後もDXの取り組みを市として続けていくことが重要です。

また、地域社会DXでは、大学の役割も重要だと感じています。例えば今回、行政と地域の方々の間に入ってお店の営業データも踏まえて分析し結果を出すことができたように、大学が行政と地域の方々をつなぐことで、住民の目線を大事にしながら地域社会のDXを進めていくことができると考えています。

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