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労働

氷河期世代支援はスマホから 就労まで伴走

京都府京都市

相談にAIも活用 アプローチできなかった層へ

バブル崩壊後の長期不況期に学校を卒業して就職活動を行っていた就職氷河期世代は、非正規雇用で働くなど現在も不安定な就労状況に置かれている人が少なくありません。京都市は、通話アプリケーションの「LINE」を使い、就職氷河期世代を主なターゲットにした就労支援サービス「キャリアジム京都」を展開しています。AIチャットボット(自動会話プログラム)で相談を受け付け、AIが相性の良い企業を提案する機能も設けており、これまでアプローチできていなかった層への支援に向けて成果を上げています。

キャリアジム京都の公式LINEの画面イメージ
キャリアジム京都の公式LINEの画面

オンラインで気軽に 夜間もカウンセリングOK

国内外から大勢の観光客が訪れる京都市。その玄関口となるJR京都駅からほど近い「キャンパスプラザ京都」に京都市が運営する就労支援サービス「キャリアジム京都」の拠点があります。

就職氷河期世代は、おおむね1993年から2004年に学校を卒業し、2024年現在、30代後半から50代半ばまでの年齢層にあたります。就職氷河期世代に向けた就労支援では、京都市では就職や転職など支援を必要としている人々を把握することが難しく、どのようにして支援を届けるかが課題となっていました。こうした中、京都市が就職氷河期世代を主なターゲットとして2021年に開始したのが、キャリアジム京都です。

利用者は、キャリアジム京都の公式LINEを「友達追加」すると、AIチャットボットによるキャリア相談を利用できるとともに、国家資格を持つキャリアコンサルタントによる対面やオンラインでのカウンセリングを受けることができます。このうちオンラインによるカウンセリングは「早朝や夜間に自宅で相談したい」という利用者のニーズにこたえて、午前6時から午前1時まで対応しています。

京都市産業観光局の渡邊樹・産業企画室ひと・しごと環境整備担当は、「『登録してみよう』『カウンセリングに行ってみようかな』と気軽に利用を始めて職が決まっていく例もあります。いきなり対面で相談するよりは、LINEを活用したオンラインサービスから始めるという仕組みが利用しやすいのではないか」とみています。実際に、登録からカウンセリングまで、すべてオンラインで完結するため、働きながら仕事を探している人や子育て中の女性などの利用も目立つとしています。

京都市産業観光局の産業企画室ひと・しごと環境整備担当の渡邊さんと産業企画室担い手確保・育成対策係長の林さんの写真
「これまでアプロ―チできていなかった層の支援につながっている」とキャリアジム京都の成果を語る京都市産業観光局の産業企画室ひと・しごと環境整備担当の渡邊さん(左)と産業企画室担い手確保・育成対策係長の林さん

AI活用し質の高いサービス 官民連携で可能に

京都市から委託を受けて、キャリアジム京都が展開するサービスの開発と運用を行っているのは、神戸市に本社を置くスタートアップの「株式会社Compass」です。

株式会社Compassには、デジタルを活用した相談業務で関西地方を中心に地方公共団体の就業DX支援に携わってきたノウハウがあります。キャリアジム京都は、仕事に対する価値観などの質問に回答すると、AIが相性の良い企業を提案する「AIジョブマッチ」をはじめITやAI技術を活用した機能と、キャリアコンサルタントによるマンツーマンのキャリアカウンセリングを組み合わせることで効率的で質の高いサービスを目指しているといいます。

株式会社Compassの大津愛代表取締役CEOは、キャリアジム京都について「仕事や家事や育児などで時間に制約があり、ハローワークなど対面での相談を前提とするサービスが利用できなかった人や、就職氷河期世代の課題を抱えていることに気づいていなかった人も利用しています」と語ります。

大津さんも就職氷河期世代の一人で、「就職氷河期世代には、経済や社会状況によって長く非正規雇用の期間があった人が多く、現在は出産や介護、病気などが重なり、希望する就労環境にない人たちもいます」と厳しい状況を説明します。そのうえで、「官民が連携することで、民間企業単独では採算面などで実現が難しいビジネスモデルを構築できました。就職氷河期世代の就労という社会課題の解決につなげていきたい」としています。

株式会社Compassの大津さんと岡田さんの写真
キャリアジム京都のサービスの開発と運用を行う株式会社Compassの大津さん(左)と岡田さん(右)。AIの活用とマンツーマンのカウンセリングで求職者をフォローする

不安の払拭から 寄り添って一歩ずつ

利用者のキャリアカウンセリングを行う株式会社Compassの岡田邦彦・キャリアコーディネーターは、「就職氷河期世代は将来に不安を持ち、仕事を探したくてもどんな仕事があるかわからないと感じている人が少なくありません。カウンセリングはこうした不安を払拭するところから一歩ずつ段階を踏んで進めます」と語ります。キャリアコンサルタントは、LINEのチャットやオンライン、対面などでのやりとりを重ね、利用者の職業観や希望条件などをふまえて、適職など具体的な進路のアドバイスを行います。利用者には「『こういう人がきてくれたらいいな』という企業側の思いを届けるとともに、『気楽な形で応募してみましょう』と呼びかけています」と岡田さん。

利用者からは「なかなか就職が決まらず精神的に疲弊した際に『頑張りましょう』とカウンセラーが寄り添ってくれて前向きに取り組むことができました」といった声が寄せられています。キャリアジム京都を利用し、正社員登用を前提に就職先が決まった50代の男性もいます。岡田さんは「丁寧なカウンセリングを通じて、就職を希望する企業に利用者のみなさんのことをきちんと説明できることが私たちの強み」と言葉に力を込めます。

求人案内の閲覧データ基に 個々に適した情報提供

また、キャリアジム京都では、独自に京都市内の企業の求人案内情報を集めて利用者に発信しています。キャリアジム京都に登録して求人案内を発信する企業は、2024年3月末時点で282社に上っています。企業の登録料は無料です。また、利用者の求人案内などの閲覧状況のデータを蓄積し、利用者が興味を持ちそうな企業を選別して情報を届けています。近年、京都市内では、インバウンド向けの事業を展開する企業をはじめ、採用意欲が高まっている企業が増えており、こうした企業についても重点的に案内しています。

キャリアジム京都の登録者数は、1万3,151人(2024年3月末)に達し、相談者数は延べ5,400人に上っています。2023年度の事業費は1,496万円で、このうち1,122万円は内閣府の地域就職氷河期世代支援加速化交付金を活用しました。

京都市産業観光局の林史明・産業企画室担い手確保・育成対策係長は「キャリアジム京都の公式LINEに登録してもらうことで、就職氷河期世代で課題を抱えている人に向けて個別にアプローチできるようになりました。求人案内なども個人のニーズに合った情報を届けることができています」と手ごたえを語ります。また、官民連携によるビジネスモデルについて「民間企業が持つオンラインやAIを活用したノウハウを提供してもらうことで、今後も地方公共団体のサービスを時代や利用者のニーズの変化に合わせていきたい」としています。

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