総務省の支援事業

テレワークトップランナー2024 総務大臣賞を3社に授与

テレワークを導入・活用して多大な実績を上げるなど、優れた取り組みを行っている企業・団体に贈られる「テレワークトップランナー2024 総務大臣賞」の表彰が11月25日、東京都千代田区の御茶ノ水ソラシティで行われました。テレワーク月間の締めくくりとして、内閣府、総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省が合同で開催した「令和6年度『働く、を変える』テレワークイベント」のなかで、表彰式や審査員による講評、受賞者による取り組み紹介が行われ、以下の3社に総務省から表彰状が授与されました。

<総務大臣賞 受賞企業>

・株式会社キャスター(東京都千代田区)

・株式会社山岸製作所(石川県金沢市)

・TRIPORT株式会社(東京都新宿区)

主催者挨拶をする総務省の阿達雅志副大臣の様子
主催者挨拶をする総務省の阿達雅志副大臣

イベントでは、まず、主催者あいさつとして総務省の阿達雅志副大臣が、「テレワークは、育児や介護と両立した柔軟な働き方を可能とし、人手不足改善、地方雇用の確保、災害時などの業務継続性などの観点からも有効な取り組みである」と紹介。「コロナ禍を経て、テレワークは一定の普及はしたが導入は十分に進んでいない。総務省としても、来年度に導入率を全国で55%、地方で45%とする政府目標達成に向け、地方や新たな業種への普及に重点的に取り組んでいく」として、受賞企業の先進的な取り組みが広く共有され、導入がさらに拡大していくことに期待すると述べました。

受賞企業の選定にあたっては、外部有識者による委員会が、テレワークの活用による、経営効果の発揮や社員間のコミュニケーションなど経営課題への取り組み、テレワークが馴染まないと思われている業種での取り組み、地域課題の解決への寄与などについて審査を行いました。その結果、優れた取り組みを行っている企業・団体を「テレワークトップランナー2024」として選定し、その中から特に優れた取り組みとして3社を総務大臣賞に選出しました。

審査員を代表して東京工業大学の比嘉邦彦名誉教授が講評を行い、「新型コロナウィルス感染症(コロナ)の影響で多くの企業・団体がテレワークを実施した。だが、2023年にコロナが5類に移行すると、一挙に多くの企業が出勤をベースにした勤務形態に戻ってしまったのは、非常に残念。我々は今回、『テレワークは非常に魅力的だ』『テレワークで企業がこれほどまで変わるのだ』と思わせるような事例、テレワークが向かないと思われる業態での導入例などを取り上げたいと思って評価を進めた」と解説しました。

表彰された総務大臣賞の3社の様子
表彰された総務大臣賞の3社。左からTRIPORT株式会社の岡本秀興・代表取締役社長CEO、株式会社キャスターの勝見彩乃・コーポレート本部パートナー、阿達雅志副大臣、株式会社山岸製作所の山岸晋作・代表取締役社長

受賞企業の取り組み紹介

引き続き、総務大臣賞を受賞した3社の代表者が、それぞれの取り組み内容やテレワークを導入・活用したことによる効果や課題、成功要因とアドバイスなどを発表しました。

株式会社キャスター(東京都千代田区)

▽事業内容:リモートアシスタントを始めとした人材事業運営

▽従業員数:836人

▽評価された点

 ・完全テレワークにより全国及び海外の800人以上の従業員を東京水準の賃金で雇用している。

 ・業務をオンラインで請け負うことで中小企業でも導入しやすい小ロットでのBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスを実現している。

 ・女性管理職の割合が76.7%に上る。

 ・累計5,000社以上がサービスを導入するなど、全国的な人材不足の解消に寄与している。

▽紹介者:勝見彩乃・コーポレート本部パートナー

テレワークの活用効果として一番に挙げられるのが、「圧倒的な採用求人応募者数」です。採用もリモートで行っていることから、居住地に関係なく採用活動を行うことができ、海外からも優秀な人材を確保できており、月平均の応募者数は約2,000人に上っています。

当社は、経理や労務、セールスなどの業務をオンラインで受託するサービスを展開しており、導入企業数は累計5,000社以上となりました。一方で、こうしたクライアントの増加に伴って、「生産管理」という課題も生まれてきました。これに対しては、独自の生産管理システムを自社開発することで対応し、業務を行うアシスタントと企業から依頼を受けた作業をマッチングさせ、プロセスや成果を可視化して、より質の高いサービスを提供できるようにしました。

また、社員間のコミュニケーションを図るため、オフラインイベントやオンラインランチなどを開催するほか、あえて、紙の社内報を発行して全員へ郵送、従業員の家族にも会社や業務を理解してもらう取り組みも始めました。

創業時から、「リモートワークを当たり前にする」というミッションの実現に向け、一貫して「フルリモートワーク」を実践しています。リモートとリアルを組み合わせたハイブリッドワークでは情報格差や不公平が生まれやすく、行動・意思決定においては公平な環境を作ることが重要であるとの考えから、フルリモートワークを経営の最優先事項にしたのです。リモートワークを成功に導いていくには、リモートワークを導入するとの方針決定を経営の最優先のアジェンダに入れることが重要なのではないかと考えています。

株式会社キャスターが発表した取り組みの一部の図
株式会社キャスターが発表した取り組みの一部(同社提供)

株式会社山岸製作所(石川県金沢市)

▽事業内容:オフィス家具、インテリア家具の販売

▽従業員数:29人

▽評価された点

・テレワークに向かない業態の導入好事例である。

・大手企業の人材を副業としてテレワーク勤務で採用することで、地方では難しい、人事やマーケティングなどの人材確保の課題を解決している。

・テレワークの活用により黒字転換を実現し、直近6年間で営業利益を227%成長させる一方で、残業時間を15%減らした。

・テレワーク導入前は求人応募者数0人だったが、導入後は4年で15人を採用するなど、経営者から見て、テレワークが非常に魅力的と思われることを実践している。

▽紹介者:山岸晋作・代表取締役社長

社名の通り、木工家具を製作していましたが、財務状況の悪化により、社長になって3年目に工場を閉鎖しました。残った家具販売部門で何とか生き残らないといけないとして導入したのがテレワークで、これにより、2億円あった繰越損失を7年で返済することができました。テレワークが、1936年(昭和11年)創業の老舗家具店のピンチを救ってくれたのです。

まず、自分たちのオフィスを改装してフリーアドレス化・デジタル化を進めて、「我々の新しい働き方を見てもらう」という、地方ではまだ珍しかったショールーム型オフィスにしました。カタログを手に顧客を訪問する営業スタイルを来店型に変えたのです。来店者からニーズをくみ取り、それらを経営に反映させていき、業績は大きく伸びました。また、大企業の優秀な人材の知見を活用する方法としてテレワークを活用しています。大企業のマーケターや人事担当者にテレワークの形態で副業的に勤務してもらって、どうやって家具を販売していくかなどを教えてもらっています。

テレワークは、遠距離恋愛と同じだと思っています。経営者と社員が互いに心から信じることが重要です。主体性を育むには、まず経営者が社員を信頼すること、そうすれば社員も社長を信頼するのだと信じています。また、社員がテレワークの価値に気付く仕組みも必要です。テレワークを実践し、発信して、結果を認めてもらう。今回のように、表彰され、外部から認めてもらうことで社員がテレワークの価値に気付き、誇りにもつながるのです。テレワークは真似ではダメ。テレワークで自社の課題をどう解決できるのかを考えて導入する。それが社員の活性化になるし、ひいては地域の企業の活性化にもつながって地方が元気になっていくのだと思います。

取り組みを発表する山岸さんの様子
取り組みを発表する山岸さん

TRIPORT株式会社(東京都新宿区)

▽事業内容:ITソリューションの開発販売、経営・労務コンサルティング

▽従業員数:23人

▽評価された点

 ・バーチャルオフィスを導入し、全国に点在する従業員の勤務や業務の状況を把握している。

 ・顧客応対にあたって生成AIとITツールを組み合わせた仕組みを取り入れるなど、ICT(情報通信技術)を非常に上手く活用している。

 ・転職サイトで、過去に転職先として検討している企業ランキングで6位に入るほど、柔軟な働き方が注目されている。

▽紹介者:岡本秀興・代表取締役社長CEO

創業時からテレワークを導入していますが、当初は、オフィス賃料など固定費や交通費などの経費削減のためでした。しかし、事業が拡大して優秀な人材が必要となり、人材獲得のためテレワークに力を入れていきました。能力が高く、働く意欲はあるが、育児や介護、病気などで定時の勤務、出社が難しい人も働ける環境を作りたいという思いでテレワークを推進してきました。

当社の働き方の特徴は三つあります。一つ目は、日々の社内業務だけでなく、採用・教育・営業などすべての業務をオンライン化していること。二つ目は、心理的安全性を意識した「対面のコミュニケーション」も重視していることです。日頃はバーチャルオフィスで相互のコミュニケーションを取っていますが、月1回、東京で集まる「全体出社」や地域圏ごとに集まる「エリア別出社」の制度を設けています。任意参加ですが、私は沖縄在住なので、この日は東京で経営会議を開き経営方針のコンセンサスを図ります。三つ目は、「ITツール×生成AI」などの組み合わせによるテレワーク環境の効率化を図っていることです。例えば、代表電話にかかってきた電話の内容を自動で文字起こしをして生成AIで要約し、誰宛てでどのような内容の電話かを識別して適切な担当者に通知しています。

TRIPORT株式会社が導入しているバーチャルオフィスの実際の様子
TRIPORT株式会社が導入しているバーチャルオフィス。日々、全国各地の社員がバーチャルオフィスに出社して働いている

2025年には団塊の世代が後期高齢者になるなど、介護しながら働きたいというニーズもさらに高まるでしょうし、少子化対策として、育児しながら働ける環境の整備が大事になります。テレワークはそうした社会課題を解決するためのひとつの方法です。「テレワークにしたら効率化できる」といった考え方ではなく、テレワークの導入にあたっては社会課題を認識することが、とても大事だと思います。