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消防・防災

「暴れ川」は突然に…遠隔監視へ町全域に無線通信網

三重県東員町

都市近郊の田園地帯 通信ネットワークを強靭化

三重県北部のなだらかな丘陵地帯にある東員町。人口は2万6,000人ほど(2024年8月末時点)で、町の中央を西から東に員弁川(いなべがわ)がゆったりと流れ、水田を中心に豊かな田園風景が広がっています。一方で東員町は、四日市市、桑名市、いなべ市に隣接し、中部地方最大の都市である名古屋市から30km圏内という地の利から、ベッドタウンとしての顔も併せ持っています。子育て世代も多く暮らし、小中学生の数も横ばいから緩やかな増加傾向にあります。そんな東員町が今、力を入れているのが、災害に強い通信ネットワークの構築です。

東員町町役場の写真
東員町は地域BWAを活用したネットワークの強靱化と遠隔監視カメラの導入・活用を進めた

少なかった災害、発生時の情報収集は目視頼み

2019年9月、東員町は記録的な豪雨にみまわれ、員弁川の支流が氾濫。住宅50棟が床下浸水する被害が発生しました。線状降水帯が町の上空に流れ込み、3時間に235mmという猛烈な雨を降らせたことが原因でした。

「東員町はもともと災害の少ない土地で、何十年もの間、河川の氾濫といったことはありませんでした。ところが最近は今までの常識が通用しなくなってきました」

東員町財政課の岩佐浩二課長は、災害に強い通信ネットワーク構築を進めた背景を、こう説明します。

これまで東員町では、災害時の情報収集を目視に頼ってきました。また、本庁と出先機関を光ファイバーでつないでいるものの、遠隔地の施設など回線が引けない地域が存在し、平時、災害時を問わず行政サービスが十分に行き渡らないという課題がありました。

町内17か所に2設置された遠隔監視カメラの写真
町内17か所に計20機設置された遠隔監視カメラ

「地域BWA」活用 基地局8倍、監視カメラを20機

そこで、地元のケーブルテレビ会社の「株式会社ラッキータウンテレビ」が提案したのが、地域BWA(広帯域移動無線アクセス)を活用し、災害に強く、セキュリティの確立した無線通信環境を町内全域に構築し、あわせて災害情報などの収集に遠隔監視カメラを導入するという構想でした。

東員町と株式会社ラッキータウンテレビはさっそく、パソコン周辺機器メーカー「株式会社バッファロー」を加えて3者で「東員町デジタル化推進に関する連携協定」を締結。総務省「令和5年度地域デジタル基盤活用推進事業」の補助事業に応募し採択されました。

具体的には、これまで1局にとどまっていた株式会社ラッキータウンテレビのBWA基地局を7局増やし全8局として、東員町内全域をカバーできる体制を構築。併せて、町内の河川やため池、幹線道路など17か所に計20機の遠隔監視カメラを設置し、地域BWAの電波を活用して情報発信することで、町のホームページなどで災害時の河川の状況などを迅速・安全に確認できるようにしました。

町民公開サイトと役場職員向け管理クラウドの画面イメージ
町民公開サイト(左)と役場職員向け管理クラウド(右)

町と民間の連携で設置スムーズ、費用も圧縮

総事業費は約1億円。補助事業となったことで、半分の約5,000万円は国費で補助され、残る5,000万円を東員町と株式会社ラッキータウンテレビが折半しました。同社で実務を担った佐藤翼・お客様センター次長は、町と同社が、しっかりと連携してきたことで、スムーズに事業を進めることができたと強調します。

「基地局をどこに整備するかというのが一つのポイントでしたが、東員町にしっかりと調整していただき、小学校の屋上や防災行政無線の上など、町の既存施設への設置がスムーズに進みました。監視カメラについても、地域の要望に沿った形で設置場所を調整することができました。既存施設を利用できたことは、費用の圧縮にもつながりました」

岩佐浩二東員町財政課長、城田昌稔ラッキータウンテレビ副社長、佐藤翼同お客様センター次長の3人の写真
東員町と株式会社ラッキータウンテレビは緊密に連携して事業を進めた(右から、岩佐浩二・東員町財政課長、城田昌稔・ラッキータウンテレビ副社長、佐藤翼・同お客様センター次長)

監視カメラに懸念も 議会や自治会へ説明丁寧に

事業を進める上で腐心したのは、住民の理解や同意をいかに得るかだったといいます。

「監視カメラの設置について、自治会の中には『プライバシーが侵害されるのではないか』といった懸念もありました。そうした点については、一つひとつ丁寧に説明をして理解を得ていきました」と岩佐さんは振り返ります。株式会社ラッキータウンテレビが地域に密着したメディアとして、住民の信頼を得ていたこともプラスに働きました。

議会への事前の説明も丁寧に進め、大きな異論もなく、予算議決にこぎ着けたといいます。

役場内でコンセンサスづくり、若手も活発議論

東員町のような比較的小規模な地方公共団体がDXを進めるにはどうすればいいのか――。岩佐さんは、「まずは庁内のコンセンサスづくり」だと強調します。東員町では2022年度、町としてのDX推進計画を策定するとともに、全庁的な組織として、課長クラスで構成する「情報化推進委員会」を設置。その下に若手職員らが参画してDX推進検討会議を設け、議論を続けてきました。岩佐さんは「若手が活発な議論をし、それを各課に持ち帰ってフィードバックすることで、幹部やベテラン職員の背中を押してきました」といいます。

8つの地域BWA基地局で町内全域をカバーしている図
8つの地域BWA基地局で町内全域をカバー

職員のリモートワークや災害時の避難にも活用へ

東員町としては、今回の地域BWA網整備を、さらなる地域の課題解決につなげていく方針です。

まずは、セキュリティが確保された通信環境が、町内全域に行き渡ったことで、町職員のリモートワークを積極的に推進していくことにしています。

また、内閣府が提供している「クラウド型被災者支援システム」に避難所など庁舎外からLGWAN(総合行政ネットワーク)を通じてアクセス可能になったため、災害時に現場で「避難行動要支援者台帳」を活用するなど、高齢者や障害のある人の避難や安全確保にも、活用していく方針です。

岩佐さんは「まずは防災訓練などで、避難所など庁舎外で利用する場合を想定して、クラウド型被災者支援システムを活用できるよう環境を整えていきたい」と話しています。

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