老朽水道管、AIや人工衛星で漏水調査…5年かかった調査を7か月に短縮できたものの
出典:読売新聞オンライン
地中に埋設されている水道管の老朽化が進むなか、兵庫県内の自治体では、人工知能(AI)や人工衛星を利用して漏水調査にDXを導入する動きが広がっている。作業員が現場に出向いて調べるのに比べて、瞬時に確認できるのがメリット。ただ、結果がわかったとしても、補修や取り換えに時間がかかる課題は残っている。
◆瞬時に表示

赤、黄、緑……。
パソコン画面に表示された西宮市内の地図に、網の目のように走る水道管路。カラフルに表現され、漏水確率が瞬時にわかる。
水道管の設置年数、大きさや材質、過去に起きた漏水の記録などのデータをもとに、AIが診断したものだ。
西宮市は2021年度、米ベンチャーのインフラ診断企業「フラクタ」のAI分析による漏水予測システムを導入した。水道管が給水を担う地域の人口に加え、埋設場所の降雨量や土壌、交通量なども入力する。
AIは1~5年以内に漏水する可能性がある場所と確率を算出し、地図上にリスクが高い水道管を表示する。西宮市の担当者は「危険な場所がすぐにわかり、全体的に見て判断できる」と話す。
フラクタ日本法人によると、西宮市のほか、三重県四日市市や岡山県笠岡市なども導入しているという。
◆宇宙から発見

兵庫県内の神戸、尼崎、姫路市などの25水道事業体は24年度から、人工衛星を利用した点検を導入した。宇宙にある人工衛星から地表に電磁波を照射。反射波をAIなどで分析して、水量や流れ方に異常がある部分を見つけるという。
漏水場所を半径100メートルまで絞り込め、作業員が音聴棒などを使って漏水音を確認し、破損しているかどうかなどを見極める。これまでは設置年や材質などを踏まえて、どの水道管を点検するかを決める作業に手間がかかっていたという。
イスラエルの企業「アステラ」のサービスで、20~21年に導入した愛知県豊田市では、5年程度かかった調査が7か月に短縮できたという。兵庫県尼崎市の担当者は「予断にとらわれずに、漏水の箇所を絞り込めるのは画期的」とする。
◆更新間に合わず
一方で、リスクが高いと診断されても、水道管の更新が間に合わなかったケースもあった。西宮市では「フラクタ」のシステムで漏水確率が高いとされた水道管路で実際に漏水が起きた。予算や費用、優先順位などを踏まえて、補修や取り換えがまだだったという。
東洋大の根本祐二教授(公共政策)は「DXを活用した調査に力を入れるとともに、水道管の更新のための予算を確保しなければならない。水道料金の値上げが不可欠ではないか」としている。
◆標準実装 政府呼びかけ
老朽化した水道管の問題は各地で顕在化している。埼玉県八潮市では1月、県道の陥没事故が発生。破損した下水道管に土砂が流れ込み、地中に空洞が生じたことが原因とみられる。能登半島地震では、水道管の破損などにより、最大約14万戸が断水した。
国土交通省によると、水道管の全管路総延長約74万キロのうち、21年度末時点で法定耐用年数(40年)を超えているのは約17万キロ。下水道管は22年度末時点で総延長約49万キロのうち、約3万キロが標準耐用年数(50年)を超え、10年後には約9万キロ、20年後には約20万キロと急増する見込みという。
政府は劣化した水道管の早期発見に、人工衛星やAIなどのデジタル技術を活用するよう呼びかけている。石破首相は八潮市の道路陥没を受け、2月の会議で「3年程度で全国で標準実装できるように」と述べた。
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