民間サービス 導入続々 アプリで出欠・日程連絡…中学部活移行

引用元:読売新聞オンライン

 全国の中学校で部活動改革が進む中、行政やスポーツ団体が主導するクラブ運営に、民間企業のサービスが続々と導入されている。特に目立つのは、デジタルトランスフォーメーション(DX)の活用による運営の効率化。改革の柱となる「地域移行」では、生徒が学校の垣根を越えて集まるため、保護者、指導者も交えた連絡や調整が欠かせない。「部活動ビジネス」は新たな産業として広がっていくのだろうか。(青柳庸介)

「むなかたアカデミークラブ」でソフトテニスの試合に臨む生徒たち
「むなかたアカデミークラブ」でソフトテニスの試合に臨む生徒たち

 コート3面の屋内テニス場は、ピンとした緊張感に包まれていた。福岡県宗像市の「むなかたアカデミークラブ」で、ソフトテニスを習う中学生が真剣勝負を繰り広げた。6月1日に開かれたクラブ内の大会に、3年生と志願した2年生の計約20人が出場。大会の開催は事前にスマートフォンのアプリで告知されており、応援に駆けつけた生徒の母親は「日程の変更も、きめ細かく連絡してもらえる」とデジタル化を歓迎した。

 このクラブは同市の委託を受けて昨年9月から、サッカーや陸上競技なども含む計10競技の教室を運営している。市立7校や県立中学校などから生徒を募り、昨年度は約230人が月1回の教室に参加した。活動日は土・日曜日。吹奏楽も加えた今年度は月2回に増やし、約380人が通っている。

 発足直後から関係者を悩ませたのが、参加者へ一斉に連絡する手段がなかったこと。顧問と生徒が学校で日常的に接する部活動との大きな違いだ。クラブの佐々木智事務局長は「日程や会場の変更、欠席連絡について個別にやり取りしなければならず、負担が大きかった」と振り返る。

 そこで今年度は、スポーツIT企業「ユーフォリア」(東京都)が提供するクラブ運営アプリ「Sgrum(スグラム)」を導入した。生徒の保護者らのスマホにインストールしてもらい、主に参加費の支払い、欠席連絡で利用する。クラブからも、こまめに情報を発信できるようになった。

 参加者の人数を学校別に集計する機能もあり、「改革を進める上で把握しなければいけない数字をつかめる」と佐々木事務局長。同市の方針に沿って、クラブは来年度から平日も教室を開き、活動頻度を増やす計画だ。ユーフォリアのアプリは全国各地の部活動改革の現場で次々に採用され、担当者は「社会のニーズと合致した」と分析する。

アプリの管理画面を使って情報を発信する佐々木智事務局長(右)と
担当の原田浩憲さん=青柳庸介撮影

 民間企業のノウハウやDXの活用例は多岐にわたる。学校の体育館のカギをスマホで開閉できる「スマートロック」、クラウドファンディングを使った財源の確保、生徒の入退室のデジタル管理などを試みる地域もある。遠隔地で暮らす生徒にオンラインで技術指導を行うサービスも、珍しくなくなってきた。

 今年度、地域移行の受け皿として6クラブを設置し、Sgrumを利用している静岡県磐田市の担当者は「クラブを20、30と増やしていく時、DXを活用しなければ立ちゆかない」と話している。

地域クラブ 持続できる環境を…スポーツデータバンク代表取締役 石塚大輔氏

 「部活動ビジネス」の動きは今後、活性化するのか。2022年、国に「地域移行」を提言した有識者会議の一員で、今も各地の改革に携わるスポーツデータバンク(東京都)の石塚大輔代表取締役に聞いた。

「部活動ビジネス」の可能性について語る石塚大輔氏

 部活動改革では、指導者を募り、評価し、財源を捻出しながら地域クラブを持続させるシステムが不可欠だ。出欠席やスケジュールの管理、活動報告を学校とクラブ、そして保護者が共有する仕組みも大切。個人情報や会費を扱う場合は、ガバナンス(組織統治)の強化も求められる。

 これまで顧問教員の負担となっていた体育館や校庭の利用調整や施錠管理も、地域クラブと相談して進めなければならない。民間のサービスやノウハウを使った情報の一元化や管理の簡素化は、ますます重要になる。行政は制度上、民間との契約を年度ごとに見直すことが多い。同じ契約者に長く任せることが良いわけではないが、複数年度にまたがる契約、成果報酬型など柔軟な方法があっていい。将来を見据えた民間との連携方法を考えてほしい。

 人口減少は避けられない上、総合体育館などの施設を維持する負担は重くなる。一方で、学校施設は有効活用すれば地域コミュニティーの拠点になる。中学生だけでなく、住民もスポーツ・文化活動を体験できるような形を官民一体で目指すべきだ。(談)

郵政社員300人「指導者研修」

 DX活用によるクラブ運営の効率化が進む一方で、既存の巨大ネットワークとマンパワーを生かし、地域移行の環境整備に一役買おうとする試みも登場した。全国に約2万4000の郵便局を持ち、グループ全体で社員約40万人を抱える日本郵政が昨年10月、日本スポーツ協会(JSPO)とパートナー契約を結んだ。

 両者は部活動や地域クラブの指導者向けに研修プログラムを共同開発し、今春から資格取得のためのオンライン講座に取り入れた。受講者約700人のうち、積極的な参加を呼び掛けられて応じた同社の社員らが約300人。同社は、各地に散らばっている社員が通常の業務とスポーツ指導を両立できるよう職場環境を整え、地域移行の担い手にふさわしい人材の育成を進める方針だ。桜井誠・常務執行役は、教員の負担軽減につながるとして試合会場の手配などを代行する構想も描いており、「ビジネスモデルとして成立するかどうかは検討中だが、企業のイメージアップやブランド力の強化になる」と話す。

 スポーツの普及・振興を後押しするため、女子陸上部などから現役選手や引退した元メンバーらを派遣できるのも強み。陸上で2016年リオデジャネイロ五輪の女子1万メートルに出場した関根花観さん(28)は、今年1月に青森県内のイベントで講師を務め、「引退後も競技経験を生かせる場があってうれしい」と話した。(西口大地)

目標達成を支援 アナログも大事 進捗記す「手帳」

 デジタル活用とは一線を画し、「アナログ」で部活動を支える工夫も健在だ。伊藤手帳(名古屋市)は4月、部活動応援グッズとして、和歌山大観光学部の学生4人のアイデアをもとにしたユニークな手帳「部log」を商品化した。 2冊1組で、上下に並べて一つのカバーに収納すると同時に使える仕組み。例えば、選手やマネジャーが1冊に目標や達成するまでのプランを書き込み、もう1冊に日々の練習内容や成果などを記入する。 進捗状況が一目瞭然だ。

 伊藤手帳は「部活をしていると、学業との両立や時間のやり繰りが大変。手帳に記して頭を整理し、目標に向かって頑張ってほしい」とエールを送っている。

引用元:読売新聞オンライン

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