総務省の支援事業

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交通

自動運転バスが当たり前に走る街…モデル構築へ快走中

茨城県日立市

実証実験で走行する自動運転バス JR大甕(おおみか)駅
実証実験で走行する自動運転バス JR大甕(おおみか)駅

日立市に事業者結集 2026年車内無人での「レベル4」運行目指す

茨城県北東部に位置する日立市は、東側が太平洋に面しており、豊かな自然に恵まれた都市です。「株式会社日立製作所」の創業地として知られ、日立グループなど多くの企業の事業所・工場が立地する工業都市として発展してきました。人口は16万人強(2025年1月)ですが、環境面などへの影響が心配される朝夕の激しい交通渋滞が課題となっていたため、その解決を目指し、2018年度にひたちBRTバス専用道路において自動運転走行の実証実験が始まりました。その後も国の様々なプロジェクトで継続的に自動運転の実験が実施されています。2022年度からは、特定の条件下で人が運転に関わらない専用道路内での「レベル4」運転を見据えた実証実験が行われ、2025年2月にレベル4の営業運行を開始。2026年3月頃の車内無人でのレベル4運行の実現を目指しています。

実証視察会で、交差点に設置された通信機器などについて説明を受ける川崎ひでと総務大臣政務官(左から3人目)
実証視察会で、交差点に設置された通信機器などについて説明を受ける川崎ひでと総務大臣政務官(左から3人目)

2024年12月にはJR大甕駅周辺の一般道で、総務省「令和6年度地域デジタル基盤活用推進事業(自動運転レベル4検証タイプ)」の実証視察会が開催され、総務省の川崎ひでと総務大臣政務官は「自動運転は日本の人口減少社会を救うと同時に、世界に売れる技術になってほしいと思っています。政府も応援するので社会実装に向けてスピードアップしていただければ」と述べました。これまでの経緯や今後の展望について、日立市都市計画課の小山博之課長をはじめ、事業に携わる「日本電気株式会社(NEC)」の松田淳先進DXサービス統括部ディレクター、「株式会社みちのりホールディングス」の浅井康太グループディレクター、「茨城交通株式会社」の仲野徳寿執行役員運輸部長、「株式会社ティアフォー」の岡崎慎一郎VICE PRESIDENTに聞きました

日立市で自動運転に取り組むきっかけは。

小山さん(日立市) 国による自動運転に関する実証事業地公募に日立市が応募し、2018年に実証実験を実施したのが始まりです。その事業は、環境・エネルギーの観点から、自動運転の普及により、CO2排出を削減するのが一つの狙いでした。日立市では長年、朝夕の通退勤時間帯を中心に慢性的な渋滞が発生し、自動車によるCO2排出、環境問題が大きな課題となっていたので、それを解消できないかという思いで事業の目的に賛同し、応募しました。2013年に日立電鉄線跡地を活用したバス高速輸送システム「ひたちBRT」が開通し、バス専用道路の一部区間(道の駅「日立おさかなセンター」~JR大甕駅)の運行が始まっていたため、自動運転に取り組みやすい環境があったという背景もありました。

日立市の大和田祐太さん(左)と小山博之さん(右)
日立市の大和田祐太さん(左)と小山博之さん(右)

これまでの経緯と成果を教えてください。

小山さん 2018年度に小型バスによる約2週間の実証実験を行い、走行区間は日立BRTの専用道を含む約3kmでした。BRTがJR大甕駅からJR常陸多賀駅まで延伸された後の2020年度は区間が約8kmに延びたほか、車両を大型化し、路線バスと同サイズの中型バスで約3か月の実証実験を行いました。いずれも部分的に運転を自動化する「レベル2」でした。2022年度は経済産業省と国土交通省の実証実験で、専用道内での「レベル4」運転を見据えた実証走行に取り組み、日本の他地域に先駆けた実証実験が進められました。2024年度は経済産業省、国土交通省、総務省による計五つのプロジェクトの実証地となり、一般道での実証実験も始まりました。なかでも総務省の「令和6年度地域デジタル基盤活用推進事業(自動運転レベル4検証タイプ)」では、通信技術の観点での課題を洗い出したり、技術の有効性を検証したりする狙いで取り組みました。具体的には二つの狙いがあり、一つはローカル5Gを使った交差点での歩行者と自動運転バスの安全確保、もう一つは携帯電話回線が混雑しても遠隔監視映像を安定させる技術の検証です。

自動運転を支援する技術について教えてください。

松田さん(NEC) NECは道路に設置されるインフラ(路側インフラ)と車両が連携する路車協調システムの実証というテーマで、インフラから自動運転の支援をしようと国内各地で実証実験に参加しています。日立市の実証実験には2024年度から参加していますが、交差点で自動運転バスの接近をアナウンスし、注意喚起を促すインフラの整備にNECとして初めて取り組みました。既設の信号柱などにローカル5G通信機器や4Kカメラなどを設置。歩行者や遠方から接近する対向車をカメラが検知して自動運転バスへ通知するほか、路側スピーカーが「自動運転バスが接近します」などとアナウンスして、歩行者に注意を促します。

自動運転バスが交差点を右折する際、路側スピーカーからアナウンスが流れる
自動運転バスが交差点を右折する際、路側スピーカーからアナウンスが流れる
交差点近くに設置されたローカル5G通信機器
交差点近くに設置されたローカル5G通信機器
自動運転の図解イメージ

加えて「学習型メディア送信制御技術」というNEC独自の技術を使い、電波環境が良くない場所でも遅延なく高画質の映像を送信できるかを検証しました。走行ルート内は大規模な工場に隣接するなどして携帯電話回線の通信環境が悪化するエリアがありますが、そうした場所も含め自動運転バスを遠隔監視するために安定した映像の配信が必要となります。「学習型メディア送信制御技術」を使えば、電波の通信速度の低下を予測し、それに合わせて必要性が低い部分の映像を圧縮するなどしてデータ量を減らし、必要な部分を高画質で遅延なく送信することができます。

NECの松田淳さん(左)と尾形一気さん(右)
NECの松田淳さん(左)と尾形一気さん(右)

多くの事業者が参加する体制はどのように築きましたか。

小山さん(日立市) 車両開発やインフラ連携、遠隔監視といった技術開発にあたる国の研究所や企業、地元交通事業者、市が中心となって2018年度から取り組みを進めてきました。そうしたなかで、経済産業省と国土交通省のプロジェクトで2025年度までに社会実装することになり、2024年には「デジタルライフライン全国総合整備計画」が策定されてJR大甕駅周辺で自動運転サービス支援道を整備することになりました。また、2024年度は総務省や国土交通省による通信関連や一般道での実証事業が始まり、実証内容や課題解決に対応した連携企業が増えてきて現在の体制になりました。

浅井さん(みちのり) 株式会社みちのりホールディングスは東日本各地の交通事業者を傘下に置いていますが、グループ会社の茨城交通株式会社は2018年度の当初から自動運転バスの運行を担当しています。継続して実証する中、その都度、様々な課題が出てきます。その課題に対して解決を図ろうと各事業者が集まっています。NECと、自動運転システムのソフトウェア開発を手がける株式会社ティアフォーは2024年度から参加しています。

日立市の実験はどんな特徴がありますか。

浅井さん ショーケース的に走らせるのであれば、自動運転は比較的容易かもしれませんが、事業として継続的に毎日運用するとなるとハードルは高いです。自動運転であることが気にならないぐらい普通に運行させることは、どの地域でもまだ実現できていません。そのなかで、日立市での実証実験は足かけ8年の積み重ねがあり、当たり前に自動運転バスが街中を走るという「モデル」を作っているところが特徴です。我々のグループは北関東・東北で100を超える地方公共団体とつきあいがありますが、日立市は他地域に先駆けて自動運転に取り組んできた重要な場所で、モデルを作るというチャレンジをしている特別な場所です。他地域でも自動運転のプロジェクトが始まる中、日立市で作ったモデルが、まずは我々のグループ内でどんどん横に広がりつつあります。

岡崎さん(ティアフォー) 株式会社ティアフォーとして特別だと思うのは、日立市や株式会社みちのりホールディングス、茨城交通株式会社のように、長年自動運転に取り組んで様々な知見を持つパートナーがいることです。いろんな課題を一緒に解決していけるという意味で日立市は特別な場所だと思います。BRT専用道から出て一般道も走る点については、我々にとっても初めてで特別な試みです。

日立市として費用負担はありますか。

小山さん(日立市) 経済産業省、国土交通省、総務省などの事業が実施されていますが、日立市としてはほとんど予算を使っていません。国が実施する事業、市が事業費の全額の補助を受けて実施する事業、事業者が応募して実施し市は協力を行う事業などがあります。市としてはBRT専用道を整備したほか、市道に機器を設置する際の庁内外の調整などを担当しています。

浅井さん(みちのり) 国が力を入れているのは、自動運転への期待が高いからだと思います。今後産業の核になり、運転手不足の中でバス路線の維持も期待できるので、モデルを作る意味で各省から支援が入っています。民間もそれぞれ研究開発を進めていますが、官のお金が呼び水となり、多くの人やお金が集まってきています。

(左から)株式会社ティアフォーの岡崎慎一郎さん、茨城交通株式会社の仲野徳寿さん、株式会社みちのりホールディングスの浅井康太さん
(左から)株式会社ティアフォーの岡崎慎一郎さん、茨城交通株式会社の仲野徳寿さん、株式会社みちのりホールディングスの浅井康太さん

実装に向けた課題を教えてください。

小山さん(日立市) 一般道を走行することで、市民の目がより自動運転バスに向けられるようになります。他の車から見ると遅い、横断している歩行者からは危ないのではないかと思われることが予想されるので、どのように市民に理解してもらうのか、今後考えていくべき課題です。

浅井さん(みちのり) 現在は、走行中に人が操作しないといけない場面があります。80%以上は自動運転で走れますが、片側一車線の道路で路上駐車の車両を回避する際はどうするかなどがこれからのチャレンジ領域です。自動運転技術の開発に加え、通信による遠隔監視、遠隔操作も使ってうまく回避できるパターンを増やそうと思っています。

仲野さん(茨城交通) 実際にバスを運行する茨城交通株式会社としては、難しい点がたくさんあります。今はレベル4で走らせる区間でも運転手がいるのでカバーできますが、運転席が無人になった状態で路線バスとして走らせると、運賃の収受、車内安全をどのように確保するのかなどの問題も出てくると思います。それをどのように解決していくのかが課題です。

自動運転に取り組む日立市とコンソーシアムのメンバー
自動運転に取り組む日立市とコンソーシアムのメンバー

今後の展望と目標を教えてください。

小山さん(日立市) 社会実装を見据え、各事業者が考える事業性、採算性を見極めながら、日立市としても国と事業者にしっかり協力していきたいです。日立市で自動運転の技術が確立され、技術が日本全国に広がっていくようになればと思います。個人的には、日立市が自動運転の「発祥の地」とか「聖地」とか、そのようになればという思いです。

浅井さん(みちのり) 技術は作ること自体が目的ではなく、使ってなんぼです。作ったものを使って役立つもの、便利になるものを実装するのが共通の目標です。採算性については、規模を大きくすることが必要です。1台だけだと成り立ちませんが、一定の規模まで台数が増えると、最初に準備した仕組みを使って効率的にやっていけます。持続可能なモデルを日立市で作りたいと思っています。

松田さん(NEC) 採算性は民間側の努力も必要です。技術が広がればコストダウンにつながり、品質も安定して提供できます。NECとしても、実装時にいかにコストを下げていくかがチャレンジですし、技術の追求、コストの低下を目標とし、各事業者と一緒に継続して取り組んでいきたい思いです。

仲野さん(茨城交通) 日立市でもコロナ禍で運転手不足が加速し、バスを減便しました。運転手がいなくてもバスが運行できる環境になれば、運行の本数を増やしたり、時間帯を伸ばしたりすることが可能となります。市民のためにも、そこを目指したいと思います。