総務省の支援事業

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住民生活

山間部ドローン配送で目指す、地域の元気維持の仕組み

兵庫県豊岡市

兵庫県北東部に位置する豊岡市は、北は日本海、東は京都府に面し、城崎温泉が有名です。野生コウノトリの国内最後の生息地として野生復帰に取り組んでいることでも知られています。面積の約8割が森林と自然環境に恵まれている一方、少子高齢化のため人口減少が続いています。山間部はいくつもの狭い谷筋に住居が点在しており、将来、荷物を運ぶ人手が不足し、配達が困難になる恐れもあります。そこで、総務省「令和6年度地域デジタル基盤活用推進事業」の推進体制構築支援を活用し、兵庫県、豊岡市、日本郵便株式会社などと配送DXの推進体制を構築する中で、ドローンなどを使ったコミュニティー配送のモデル構築に取り組んでいます。目指しているのは、地域内の配送機能が維持されるとともに、住民がコミュニティー配送を担うことにより高齢者の方たちの孤立を防ぎ心身ともに健康を維持する仕組みづくりです。取り組みのきっかけや今後の展望について、豊岡市DX・行財政改革推進課の竹内香奈美主任と、支援事業者「一般社団法人コード・フォー・ジャパン」の榊原貴倫さん、砂川洋輝さんに聞きました。

豊岡市の竹内さん、一般社団法人コード・フォー・ジャパンの榊原さん、砂川さんの写真
右から豊岡市の竹内さん、一般社団法人コード・フォー・ジャパンの榊原さん、砂川さん

配送DXに取り組むきっかけは。

竹内さん 2023年に、豊岡市但東(たんとう)地域(合併前の出石郡但東町の地域)の自治会の連合組織「但東区長協議会」から、ドローン、自動運転など新しいテクノロジーを使って、人家が少ない田舎だからこそできる取り組みや実証実験に参加したいという要望が市に寄せられました。市としてもドローンで何かできないかと考えて、ドローンでの配送に取り組んでいる日本郵便株式会社に候補地として但東地域をプレゼンテーションし、実証地として選んでいただきました。

榊原さん 兵庫県は、社会課題をスタートアップの技術で解決し、スタートアップのビジネスにする“ひょうごTECHイノベーションプロジェクト”を実施しており、そこに、豊岡市がドローン配送に意欲をみせていると聞き、中山間地域の課題解決として配送DXを協力して進める流れになったイメージです。日本郵便株式会社は2023年3月、東京都奥多摩町で、有人地帯上空を目視外飛行させる「レベル4」の試験配送に日本で初めて成功しましたが、「西日本でもどうですか」と、県と豊岡市から日本郵便株式会社に声を掛けたのです。

現在、配送に関して地域の課題はありますか。

竹内さん 今回、実証実験を行っている地域では、荷物が車などによる戸別配送といった通常の手法で目的地に届きます。そのようなまだ課題が顕在化していない地域での将来を見据えた実証実験というコンセプトは国内でも新しい取り組みだと思います。ただ、但東地域の一部では、新聞配達については集落分をまとめてバス停に置いて配達完了とし、集落の人たちが取りにいくという形が始まっています。

砂川さん 配送よりも公共交通の方が、先に課題となっている面はあります。しかし、将来的には配送も大きな課題になってくることは推察されています。

竹内さん 公共交通に関しては、民間のバス会社の手が行き届かなくなり、市内でも路線が廃止される地域が出ています。そこで、公共交通が廃止された地区の不便さを解消していこうと、地域コミュニティーが主体となり、同じ方向へ出かけたい近隣住民がマイカーに乗り合わせる新しい移動の形の実証運行がされています。

配送DXについての取り組みを教えてください。

榊原さん 2023年12月、日本郵便株式会社によるドローンの実証実験で、豊岡市出石郵便局から8kmほど離れた但東地域の集会施設まで荷物を運びました。日本郵便株式会社としては将来、人手不足のために戸別配送が難しくなった場合、コミュニティー配送という概念が実装できるか検討しており、豊岡市但東地域の住民の中にもそれを前向きにやってみようという方がいました。2024年3月には日本郵便株式会社などが開発した新型ドローンによる実験を繰り返し、出石郵便局から但東地域の2地区の集会施設などへ荷物を届けました。将来的にドローンなどを活用して各家庭までどのように荷物を運ぶのか、本当に人が足りなくなって身動きが取れなくなる前に、どういう工夫をすればお互いのためになるかということを、時間をかけて住民と対話しています。まずはドローンが飛んできた地点に荷物を取りに行くという形で、2024年10月下旬から週に3回、数人の住民有志とともに実証実験を始めたところです。その結果によって、今後どういうやり方がこの地に合うか見つけていきたいと考えています。

実証実験で荷物を運ぶドローンの様子
実証実験で荷物を運ぶドローン
ドローンから荷物を取り出す様子
ドローンから荷物を取り出す

竹内さん 日本郵便株式会社が地域の拠点まで荷物を運んだ後の、各家庭へのいわゆる「ラストワンマイル」の配送手法は、未定の状態です。そこで、総務省の地域デジタル基盤活用推進事業の推進体制構築支援を活用してDX推進体制の土台を作るとともに、地域内でどういう配送が適しているのか、住民有志の方と話し合って実証を進めているところです。高齢化率が高い地域なので、DX化されたシステムやスマートフォンの使い方から説明し、そういう方にもやさしい仕組みを探っています。

実証実験で住民に荷物を渡す竹内さんの写真
実証実験で住民に荷物を渡す竹内さん

総務省のDX支援はどのように活用していますか。

砂川さん 兵庫県では、県内6市町との共同事業として、様々な分野の地域社会DXモデルを創出する構想を掲げており、その推進体制をつくるために総務省の推進体制構築支援を活用しています。その一つが、豊岡市の配送DXの取り組みで、兵庫県の伴走支援事業者の1つとして一般社団法人コード・フォー・ジャパンが選ばれました。私たちが専門人材として市に常駐する形で、多くの関係者と調整し、地域内での配送モデルの検討や実証実験実施に向けた支援にあたっています。配送DXを地域で取り組むにあたって、地域住民とどのように対話を重ねるといいのか、市職員と一緒に地域に入り、支援しながら進めています。

また、市職員に対し、テクノロジーを使ったシステムやツールをレクチャーしたり、データ利活用や事業設計のトレーニングを受けてもらったりと、人材育成にも取り組んでいます。我々と豊岡市は2020年の「豊岡スマートコミュニティ推進機構」設立で縁があり、そこからDXやテクノロジーの実証実験などで協力してきました。総務省の推進体制構築支援では、県と市町が連携する形で、実証・実装の前段階にあたる体制づくりから専門人材の支援を受けて取り組みを進めることができるので活用しやすいと思います。

竹内さん 豊岡市は配送だけではなく、DX全体を進めていて、第5次豊岡市行財政改革大綱の取り組みの柱の一つに「デジタル社会を前提とした市役所になっている」を掲げています。昨年度から部署を超えて若手・中堅職員を集め、市役所の働き方や業務のやり方の改革、実践を通じ、DX人材の育成も進めていたところです。総務省の推進体制構築支援のおかげで、豊岡市としては費用負担なく、人材育成も進められるので助かっています。また、どういう方法であれば、コミュニティー配送を地域住民が継続して運用できそうか、地域の実情に合った方法の提案や地域住民との対話の手法などを指南してもらえています。

配送DXが目指す目標、未来像とは?

竹内さん 配送DXによって地域の特に高齢者の方たちがその地域でいきいきと暮らせることが目標であり、未来像です。コミュニティー配送により、体を動かせる高齢者の方たちの役割と出番が作られ、地域の方に感謝されるといった社会的処方(※)の考え方を取り入れたく思っています。高齢者の方の外出機会が減り、話し相手がいなくなり、体も動かさなくなると、孤独・孤立化が進みます。地域の拠点まで来た荷物を各住宅へ届ける、または取りに来ることを地元の住民が担うことで、そうした課題も解決できればと思います。ドローンを使った配送やコミュニティー配送の実証実験は、予想以上に住民が好印象で受け止めてくれました。まずは実証実験で出た課題を改善・解決しながら、荷物の到着・配送を管理するデジタルツールや配送を担う人のインセンティブなど、どういう方法であれば、コミュニティー内の配送を自分たちでやっていけそうか地域にあった方法を見つけたいです。

砂川さん 荷物が直接家庭に届かないことによって、逆にコミュニティーや会話が生まれたりするなど、メリットに転じるのを狙っています。誰かのために運び、ありがとうと言ってもらえる地域社会です。豊岡でうまくいけば将来は横展開できればと思います。

一般社団法人コード・フォー・ジャパン砂川さんの写真
豊岡市の竹内さんと一般社団法人コード・フォー・ジャパン榊原さんの写真

※社会的処方・・・人と人のつながりを用いて「孤独・孤立」のような問題を解消し、人を元気にする仕組みのこと。