総務省の支援事業

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住民生活

難しくなる民生委員の担い手確保…ICT活用で打開へ

兵庫県三田市

動画やSNSで広報強化 性急なデジタル化ではなく住民が受け入れられる形で

大阪・神戸のベッドタウンとして広がる大規模住宅地と緑豊かな農村との2つの顔を併せ持つ兵庫県三田市は、民生委員・児童委員の担い手不足解消を目指して、2023年度から総務省「地域情報化アドバイザー派遣制度」を活用しています。助言を受けて委員活動の魅力を伝える動画づくりなどの戦略的広報活動の強化と、候補者推薦手続きの見直し、委員活動の負担軽減などの取り組みを進めています。また、この取り組みは、2024年度以降も継続して地域情報化アドバイザーの支援を受けつつ、進化中です。施策の実施の経緯や具体的な内容について、市健康福祉部地域福祉課の池田宜功(たかかつ)・地域共生推進係長と地域情報化アドバイザーを務める「ai株式会社」の井上あい子代表取締役に聞きました。

フラワータウンの空撮写真
大規模な計画的市街地として開発された三田市初のニュータウン「フラワータウン」

地域情報化アドバイザー派遣を申請したきっかけは何ですか。

池田さん 三田市は1980年代、JRや神戸電鉄の利用で大阪・神戸の都心に約1時間で通えることもあって急速に宅地化が進み、人口増加率が1987年から10年連続で日本一になりました。それが2000年以降は新規の流入が落ち着いて10万~11万人台で推移しており(2025年4月末現在で10万6,077人)、今では農村部だけでなくニュータウンでも高齢化が進みつつあります。

民生委員・児童委員は217人(2025年5月現在)で、地域での見守りや居場所づくりといった重要な活動をしています。次代を担う人材の確保が課題となっており、若い世代に関心を持ってもらえようICT(情報通信技術)を活用した広報活動ができないかと庁内のDX推進課の担当者と協議してきました。そうした中で、地域情報化アドバイザーである井上さんの存在を知りました。派遣申請の決め手は「いつでも、どこでも、何をするにもやっぱり『人』」という井上さんの基本方針でした。

三田市の池田さんの写真
地域情報化アドバイザー派遣制度に申し込んだきっかけを語る三田市の池田さん

井上さん 最初に派遣されたのは2024年1月でした。市は当初、委員活動の負担軽減のために専用のタブレット端末導入を模索していましたが、いきなりデジタル化するよりも、まずは委員活動における課題は何かを抽出するところから始めた方が良いとアドバイスしました。委員の皆さんや市内に8つある地区協議会の代表との意見交換の場を設けたところ、高齢化だけでなく、近所で支え合う地域のつながりが希薄化して委員の役割や負担がどんどん増えていることや、地区によって委員の受け持ちに濃淡が目立つことが課題として浮き彫りになりました。さらに、区・自治会活動そのものが弱くなり、区長・自治会長が担ってきた候補者探しも難しくなっていました。これらを踏まえて、取り組むべき委員活動の再整理と候補者探しの手法見直しを助言しました。

委員活動と候補者探しでどんな課題が見つかりましたか。

井上さん 民生委員・児童委員活動は無償ボランティアであるものの、高まるニーズに応えるため「見守りなどの対象者のニーズを行政につなぐ」という本来の役割を超えて熱心に向き合う委員がいます。毎月の活動報告やアンケート調査結果といった事務局へ提出する書類も多い。候補者探しでは、委員として困っている人に手を差し伸べたいと考える心優しい市民がたくさんいる一方で、誰かから頼まれないと手を挙げにくかったり、自分には荷が重いと気兼ねをしたりと、心理的な壁が見られました。

ai株式会社の井上さん
三田市との取り組みについて説明するai株式会社の井上さん

池田さん 1980年代に宅地化が進んだ地区は今、「オールド・ニュータウン」と呼ばれ、高齢者の見守り件数が特に増えています。市内で活動する委員の平均年齢は2025年5月現在で69.6歳になっており、中には80歳代もいます。熱心さのあまり委員自身の生活を崩さないよう助言することがあるほどで、委員の負担感は(年齢的にも活動的にも)増えていると思っています。これを軽くすることが次の担い手確保のポイントと考え、個々の受け持ち世帯数の調整や手間のかかるアンケート調査の手法の見直しを検討しています。

具体的にどんな取り組みをするのですか。

池田さん 民生委員・児童委員は3年任期で、直近では2025年秋に一斉改選されます。三田市の場合、主に区長・自治会長が候補者を探し、本人の同意を得たうえで市の民生委員推薦会に推薦調書を提出します。しかし、適任者を選ぶのが難しくなりつつあり、その役割を担う区長・自治会長を行政がどう支えればいいのか、悩ましいところでした。

井上さん 区長・自治会長はこれまで、見つけた候補者に委員活動を説明する際に紙の資料を使っていましたが、活動を巡る細かなニュアンスが伝わりにくい面がありました。そこでICTを活用し、直感的でわかりやすい説明資料として、市に委員活動を紹介する動画コンテンツの制作を提案しました。できれば三田市に特化した内容ではなく、ほかの地方公共団体で広報や研修といった様々なシーンで使ってもらえる汎用性の高い素材にするよう助言しました。動画の掲載サイトにつながる2次元コードを印刷した啓発チラシも作り、候補者探しで説明する区長・自治会長の負担軽減や、候補者への委員活動の理解促進を図りました。

動画の内容と活用法を教えてください。

池田さん 井上さんの助言を受けて2024年度に制作した動画コンテンツのタイトルは、「あなたの思いが笑顔をつなぐ~なってよかった、民生委員・児童委員」です。制度や役割を紹介するアニメーション主体で約7分間にまとめました。委員4人のインタビュー映像もあり、活動する喜びについて「人とつながり、知り合いになれる。これに尽きます」との声が収録されています。短くまとめた30秒のPR版、約3分のダイジェスト版、啓発チラシのデザインを含めた制作総額は99万円でした。この動画は、2025年5月22日に報道機関に情報提供した後、市公式YouTubeで一般公開し、市ホームページを通じてアクセスできるようにしています。また、2025年6月14日に開催する「地域共生フォーラム」でも動画の活用を計画しています。県内1市から動画を活用したいとの問い合わせを受けたほか、フォーラムに県内1市からの参加申し込みがありました。県外からは、市ホームページを見た1市から視察を要望されました。

井上さん 「地域共生フォーラム」は委員活動を広くPRするもので、初めて開催します。私は令和7年度も引き続き地域情報化アドバイザーとして派遣され、企画・運営に携わりました。候補者選びに向けてはこれまで、委員の一斉改選のある3年ごとに区長・自治会長ら関係者向けに事務説明会を催しただけでしたが、新たに制作した動画を多くの人に見てもらい、委員も協力する地域活動について地域の方も含めて意見交換を行うために、一般市民が参加できる場を追加しました。市の広報誌「広報さんだ」(2025年6月号)では4ページの特集記事を掲載。刷り上がった啓発チラシは委員が受け持つエリアで配るほか、市内掲示板に貼ったり、各市民センターに置いたりしています。動画コンテンツの情報を様々なメディアを通して発信することで市民の理解醸成を促し、秋の一斉改選に向けた機運を高めます。

市が制作した動画のキャプチャー
市が制作した動画のキャプチャー。YouTubeの市公式チャンネルで視聴できる

ほかにも新たな取り組みはありますか。

池田さん 民生委員・児童委員活動の担い手不足の解消には、若い世代を含めた市民に活動をより身近に感じてもらうことが欠かせません。そこで、若・中年層を中心に幅広い年齢層への情報発信の強化を目的として、「三田市民生委員児童委員協議会」内に新たに広報部会を設けました。2025年5月現在、広報部会では、活動の様子をインスタグラムに投稿することによって、やりがいや人のつながりの温かさを多くの人に知ってもらえるよう公式SNS開設の準備を進めています。8地区の代表らとともに情報発信の必要性や投稿方法、プライバシー配慮などの注意点を整理し、全ての委員に伝えるため、各地区へ赴き説明しました。SNS発信を日常的に続けることで、委員の担い手が次世代につながることを期待しています。

井上さん 公式SNSで何を発信するかがとても大切です。難しく考えるのではなく気楽に、日々の活動でのちょっとした喜びを、やわらかい言葉やメッセージで発信できればいいと思います。委員の皆さんや候補者探しに尽力されてきた区長・自治会長のこれまでの民生委員・児童委員活動への貢献には最大限の敬意を払いつつ、動画やSNSといったICTツールを加えることで、広報をさらに強化していきたいと思います。

今将来に向けてどんな展開をしていきますか。

池田さん 民生委員・児童委員に報告いただく活動記録などのアンケート調査でデジタル化を図れないかと考えています。もっとも、現状の紙面で報告するかたちに慣れていて、DXに抵抗感を持つ委員もいます。急にデジタル化に舵を切るのではなく、紙とデジタルのどちらも選べるようにするなど、ゆるやかな導入を考えています。書類作成の簡素化は負担軽減を図るうえで必要となるため、今後、負担の少ないデジタルの活用について検討していきます。

井上さん デジタルの活用では、操作しやすくする工夫が求められます。例えば、調査回答をテキストで打ち込むのでなく、用意されたプルダウンメニューの一覧から選べるようにする。委員の担い手不足解消には、候補者を推薦する仕組みの再構築が必要です。三田市では候補者推薦の役割について、区・自治会を主軸にしていますが、今後、先細りが予想されるため、近い将来、地域で活動する防災団体や福祉事業所などにも広げるべきだと思います。区・自治会の弱体化は全国的な課題です。現状の取り組みを見直しつつ動画やSNSを組み合わせて解決を目指すという三田市の取り組みは、先進的といえます。私の方では、現在支援に入っている地方公共団体など、あらゆるシーンに応じて四方八方に情報発信をさせていただきますよ。ほかの市町村、都道府県や省庁にこの取り組みを知ってもらい、それぞれの施策に刺激を与えることができればいいですね。

事業に取り組む地域福祉課の中村泰之課長、池田さん、同課の森山桃花さん、ai株式会社の井上さんの写真
(左から)事業に取り組む地域福祉課の中村泰之課長、池田さん、同課の森山桃花さん、ai株式会社の井上さん