総務省の支援事業

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消防・防災

貸与タブレットに村窓口アプリなど追加、DX実装へ

高知県大川村 むらづくり推進課 近藤諭士課長 吉本強課長補佐

総務省「令和5年度地域デジタル基盤活用推進事業」の補助事業を活用して村内の通信ネットワークを整え、防災システム刷新に着手した高知県大川村。今後は、防災だけでなく、ネットワークを活用した様々なDXに挑んでいきたいと意欲的です。「高知の秘境」を自認する、人口351人(2024年6月末現在)の小さな村の挑戦と、今後の展望について、DX計画を進めるむらづくり推進課の近藤諭士課長と吉本強課長補佐に聞きました。

総務省の補助事業を申請したきっかけを教えてください

近藤さん これまで、村の防災用の無線環境は、2009年に設置した10MbpsのOWSでした。これをインターネットにも使っており、高速のブロードバンドが欲しいという村民の署名活動もあったほどでした。けれど、整備するには費用がかかるため、14年にわたり、修理で何とか対応していたというのが実情です。ところが、部品が製造停止になり、次に何か壊れたら防災システムはもちろん、村内のネット環境も維持できない状態に陥りました。そこで、どんな補助があるかを探すところから始めました。

総務省事業の魅力を語る近藤さん
総務省事業の魅力を語る近藤さん

通常、通信基盤の整備では、補助対象は通信基盤の整備のみで、各家庭へのタブレット配布は補助対象になりません。けれど、村内で防災用のタブレットを各自で購入してくださいということになると、おそらく購入は進まず、特にお年寄りの住宅などは防災情報から取り残されてしまうでしょう。なので、通信基盤だけでなく、タブレットの無償貸与までを事業計画に入れるというのは譲れない点でした。そうした中で、タブレットまで補助対象となり、かつ全体の半分を補助してくれる総務省の事業は非常に魅力的でした。

吉本さん 2009年のOWS整備時からずっと、総務省四国総合通信局(四国総通局)の方が親身になって相談に乗ってくれていたというのも大きかったと思います。補助事業を申請する前から、「無線ネットワークが壊れて維持できなそうだが、どうすれば良いか」と相談をしていました。総務省の補助事業を紹介していただいたのをはじめ、村の立場に立っていろいろとアドバイスしてもらいました。

補助事業を実施してみていかがでしょうか。

近藤さん 実を言うと、補助事業を申請しようとした際、総務省からは、同じ地域デジタル基盤活用推進事業の中にある計画策定支援事業から始めてはどうかと提案を受けました。それであれば、計画策定段階から相談に乗ってもらえると聞きました。けれど、防災用の無線ネットワークがいつ壊れるか分からないという状況だったため、「どうしても今年度中に始めたい」と伝えて、急ぎ相談に乗ってもらって、整備にこぎつけることができました。そういう意味では、村の事情を考慮していただいたのだと思っています。

吉本さん BWAという無線システムに刷新したのですが、以前の10倍にあたる100Mbpsの速度があります。防災情報が文字で配信されるほか、TV電話システムも搭載されており、音声や画像が途切れることなく、相手の様子がよく分かりました。防災用の無線がうまくつながらないことがある事態に懸念を抱いていた住民にも、非常にスムーズにリアルタイム映像を使って通信できると好評です。

相談にもしっかりと乗ってくれたと語る吉本さん
相談にもしっかりと乗ってくれたと語る吉本さん

本当は、すべての世帯に同時にタブレットを貸与したかったのですが、予算の都合もあり、まずは独居のお年寄りから貸与を始めました。この補助事業は、単なる通信インフラの整備だけではだめで、地域課題解決についてきちんと考えられているかが採択の可否を左右すると四国総通局の方からも聞いていました。その点、通信インフラを使って防災を強化したかった大川村にとっては、ちょうどよかった。また、計画策定支援ではありませんでしたが、事前相談をしっかりすることができ、その過程で将来的な課題や予算を含めて計画自体のブラッシュアップもできました。それもあって、実装もスムーズだったのだと思っています。

2023年度に1次公募の申請・採択に加え、2次公募も申請されたのはなぜですか。

近藤さん 村の人口は現在350人ほどで、公共の交通機関もほぼない状況です。だからこそ、DXを使って省力化や効率化を図り、住みやすい村にしたいという気持ちは持っていました。実施したい試みはいろいろとありましたが、予算には限りがあります。まずは防災の基盤整備が最優先ということで、1次公募で目安となる上限いっぱいまで申請したのです。それが採択となったあと、別件であれば2次公募にも申請できると聞き、防災サイレンの無線ネットワークのほか、1次公募で実現した防災ネットワークを利用した牛舎の監視や鶏舎の環境データ収集といった一歩進んだ事業にも乗り出すことができました。

今後の計画について教えてください。

近藤さん 総務省の補助事業により、まずは通信インフラというハード部分が整ったので、次はソフト面の充実を考えています。ようやくDXの土台となる通信基盤が整ったので、今年度(2024年度)は別の国の補助金(デジタル田園都市国家構想交付金)を申請することができました。その補助金を使って、タブレットをすべての家庭に貸与し、村全域で防災DXを実装する予定です。平時のお年寄りのTV電話による見守りも、本格的に運用を始めたいと考えています。牛舎や鶏舎の監視・環境整備についても実装を進めています。

吉本さん タブレットについては、便利なアプリケーション(アプリ)を少しずつ追加していくことを想定して、システムを設計してあります。これからは、タブレットにかかってきた電話をとらなくても、緊急時は自動で村のお知らせが音声で流れる放送システムや、役場まで来なくても様々な手続きができる窓口機能アプリ、ラジオ放送を聴けるアプリ、農業などに役立つ詳細な天気が分かるアプリなど、必要な機能を毎年、少しずつ追加していくことを考えています。

防災用のテストメールを送信する吉本さん
防災用のテストメールを送信する吉本さん

近藤さん 村としては、やはり人口の少なさが大きな課題です。高齢者の割合が多いこともあり、産業を担う働き手も不足していますし、役場の職員も限られています。その一方で、豊かな自然という環境に惹かれて移住してくる若い世代も現れています。そうした世代にはインターネットが不自由なくできるような通信基盤の整備は必須でしょう。村の将来を考えれば、人でなくてもできる作業を含めたいろんな手間をDXで補い、そうして浮いた人の手を本当に必要な場所に配置して、産業や社会基盤を維持していかないといけないと考えています。人口減、交通の不便さといった課題をカバーできるような仕組みを、今後も考えていきます。

村の将来について試行錯誤を続けていく
村の将来について試行錯誤を続けていく

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