イベントレポートvol.4 「ICT Expo 2025 in 松江」
地域課題解決のソリューションを展示 42者・団体が集結
最先端のICT(情報通信技術)を活用した地域課題を解決するためのソリューションを紹介する「ICT Expo 2025 in 松江」が2025年1月16日、17日の両日、島根県松江市の「くにびきメッセ」で開催されました。このICT Expoは、総務省中国総合通信局と中国情報通信懇談会の主催で行われ、ICTソリューションの展示会には、通信・放送分野の企業や研究機関など42者・団体が出展。地域社会DX推進につながる様々なICTソリューションを紹介するブースが並び、2日間で800人強の来場者が各企業・団体から説明を受け、実際に機器を触ったり体験したりしました。このほか、総務省の情報通信施策やICTによる地域課題解決の具体的事例を紹介する「地域情報化促進セミナー」も開かれ、180人が参加しました。

アジア言語に強み・国産技術のAI同時通訳などが登場
開会日の1月16日には、総務省の下仲宏卓大臣官房審議官、梅村研中国総合通信局長らも各ブースを視察し、様々なソリューションに触れました。梅村局長は「ICT活用による課題解決を進めていこうという地方公共団体や地域の方が増えるきっかけにしたい」と、ICT Expoの開催の狙いを語りました。

なかでも「国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)」のブースは「AI同時通訳」のデモンストレーションで注目を集めました。NICTの職員がマイクを使って「みなさんにお会いできて光栄です。万国博覧会がまもなく大阪で開催されます。世界の最先端技術が集結するほか、自動音声翻訳技術の実用化も期待できます」と話すと、その言葉が四分割した画面の左上に日本語で表示され、すぐに英語、中国語、韓国語に翻訳されて残りの分割画面に表示されます。加えて、同時通訳された音声もスピーカーから流れます。


画面上では、音声入力された言葉が一文ごとに翻訳されて表示されます。それと同時に、AIが文章よりも短い意味のまとまりを次々と見つけだして翻訳し、その結果を音声合成することで高速かつ正確な同時通訳を実現します。2025年4月に開幕する大阪・関西万博に向けて開発され、精度を向上させている技術で、15言語まで対応可能といいます。万博会場で開催されるセミナーやシンポジウムなどの講演内容の同時通訳に活用される予定です。
NICTユニバーサルコミュニケーション研究所総合企画室の塩津英史参事は「この技術は三つの過程から成りたっています。最初は音声認識で、次が翻訳。最後に、翻訳したものを音声合成します。今後もそれぞれの技術の精度を高めていきます」と話し、同室の中村憲治参事は「AI翻訳は海外の企業も力を入れていますが、我々は国産の技術として日本語を中心に精度を高めており、特にアジアの言語の翻訳精度に定評があります」と説明します。
展示会ではこのほか様々な企業や団体から、触り心地をデジタル化して他者と共有する技術や、スポーツの試合を自動で撮影・ライブ配信できるAIソリューション、観光防災デジタルマップなど、多様なICTソリューションが紹介されました。
住み慣れた地域にいつまでも暮らせるまちづくりへ 総務省のデジタル政策などを紹介
16日に開催された地域情報化促進セミナーでは、下仲審議官が「活力ある地域社会の実現に向けた総務省のデジタル政策<住み慣れた地域にいつまでも暮らせるためのまちづくり>」と題して基調講演を行いました。

下仲審議官は、地方における少子高齢化の進行が深刻であることに言及しつつ、「必要な仕事量に対して、働くことができる生身の人間の割合が少なくなり続けています。働ける人を増やすだけではなく、生身の人間がする仕事量を減らさなければならず、究極的には機械、通信機器などに仕事をしてもらうことが必要です」と指摘しました。あわせて、光ファイバー、携帯電話ともに世界最高水準のICT基盤が整備されているといった日本の強みや情報通信産業の構造変化によるネットワーク需要の増大、AI市場の拡大といった動きについて説明。地域社会DXを進めて行く上での課題としては、導入・運用にかかる予算やデジタル人材の不足、DXに関する情報の不足、DX推進体制の欠如などを挙げ、地域社会DX推進のために総務省が展開する地域社会DX推進パッケージ事業を紹介しました。さらに、総務省の支援事業を活用した具体的な取り組みとして、長崎大学病院の3つの診療科と離島の基幹病院をローカル5Gでつなぎ、4Kカメラの映像をリアルタイムで送信することで、専門医による遠隔医療支援を実施した事例を紹介。農業分野でのトラクターの自動走行、鉄道分野での車載カメラとAIを活用した線路の保守作業といった事例も示されました。下仲審議官は「地域社会DXの推進なくして地域社会の維持は困難であると言っても過言ではないと感じています。この講演のサブタイトル『住み慣れた地域にいつまでも暮らせるためのまちづくり』にとって、効果的な地域社会DXの推進は必須であるという意識を強く持ち、地に足のついた地域社会DXの取り組みを着実に進めていただくようお願いいたします」と呼びかけました。
続いて、各地でICTに取り組む4人による講演も行われました。「株式会社海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT)」の大島周代表取締役社長は「日本企業の海外展開を支援するJICTの取り組み」というテーマで登壇し、国内外の経済動向を解説した上で、日本の競争力強化に向けた政府施策、地方から海外展開するICT企業を支援するメニューなどを紹介しました。「アイテック阪急阪神株式会社」事業開発部の田中秀樹さんは「地域デジタル基盤活用推進事業(実証事業)を活用した雲南市飯石地区における獣害対策取組事例」と題して講演し、最新の無線技術を使った檻や罠の遠隔監視、イノシシやタヌキなどの動物の動向把握で、見回り時間を短縮した取り組みを説明しました。
「西日本電信電話株式会社(NTT西日本)」エンタープライズビジネス営業部の木村崇担当課長が「地域課題解決に向けたスマートシティ推進」とのテーマでNTTグループの取り組みなどを紹介。島根県eスポーツ連合の木村一彦事務局長は「eスポーツによる地域課題の取組」として出雲市での官民連携の事例などを示しました。

「ICT Expo 2025 in 松江」の開催期間を通じて、地方公共団体、民間企業、研究機関など様々な組織に所属する来場者同士が地域社会DXの推進をテーマに、活発なネットワーキング・意見交換を行っている様子が見られました。