イベントレポートvol.3 「TOHOKU DX GATEWAY 2024」
東北全体のDX推進へ 地方公共団体と企業が一堂に
東北を中心とする地域DXの先進的な取り組み事例や、企業のDXソリューションを紹介する「TOHOKU DX GATEWAY 2024」が12月3日、仙台市の仙台国際センターで開かれました。東北全体の地域DXをさらに推し進めることを目的に、仙台市が主催したDX展示会で、昨年に続いて2回目の開催となります。各地方公共団体がデジタル技術を導入したいと考えても、参考となる先行事例が周辺になかったり、相談できる企業が限られていたりすることから、仙台市が旗振り役となって、「高齢化や人口減など地域の課題解決にデジタル技術を活用して取り組み、東北全体のDXの促進も図る」(仙台市まちのデジタル推進課)との狙いで企画されました。
出展者増え103ブース、トークセッションも熱気
展示会の最大の特徴は、DXを取り入れた地方公共団体と、その先進技術を提供した企業が同じブースで出展していること。今回は、昨年より32多い103のブースが展開されましたが、そのうち約7割の75が地方公共団体と企業の共同ブースでした。地方公共団体と企業の両方から話を聞けること、特に、地方公共団体職員から、使い勝手や利用者の反応、苦労した点など、生の声を聞けるのが魅力だとして、会場は約1,800人の地方公共団体関係者らで終日、にぎわいました。
今回の展示会では、デジタル庁や総務省の担当者の基調講演やトークセッションのほか、企業・団体の取り組みを紹介するセミナーが行われ、企業のパネル展示場も設けられました。
会場中央に設けられたステージでは、トークセッションに先立ち、仙台市の郡和子市長が主催者としてあいさつしました。郡市長は、「年々深刻化、顕在化している人口減、少子高齢化などの問題に対応していくために、地方公共団体がデジタルを活用したDXに取り組むことが不可欠」と地域DXの意義に言及。「地方公共団体の限られたリソースのなかで効果的にDXを進めていくためには、先進地方公共団体の取り組みを横展開し、国や県の支援策を上手に活用することや、デジタル人材の確保・育成が重要」と課題に触れ、「今回は現場の生の声を聞ける貴重な機会。このイベントを契機に皆さんのDXがさらに進むよう祈念しています」と述べました。
「自治体におけるDX推進とデジタル人材確保・育成について」をテーマにしたトークセッションでは、東北大学大学院の舘田あゆみ特任教授の司会で、谷内田修・デジタル庁企画調整官、志賀真幸・総務省自治行政局地域力創造グループ地域情報化企画室長 併任 地域DX推進室長、小木郁夫・「一般財団法人GovTech東京」の官民共創グループ長、菅原直敏・福島県磐梯町副町長が意見を交わしました。
地方公共団体の重要な課題となっているデジタル人材の確保については、小木氏がGovTech東京の事業内容を説明。人材確保を一元的に行い、スキルや勤務条件に応じて都内の各地方公共団体に案内する仕組みを稼働させたことや、デジタルなどに関する勉強会の様子や資料を配信する仕組みを作ったことなどが紹介されました。また、菅原氏からも磐梯町の取り組み状況が報告されました。
公共交通や防災など8分野、来場者が詳細に質問
展示ブースは、「公共交通」「医療・健康・子育て」「防災」「市民サービス」「コミュニティサービス」「教育」「共通基盤・汎用ツール・モジュール」「データ連携基盤」の、八つの分野に分けて展開されました。
「公共交通」のコーナーでは、地域の生活の足を確保する様々な施策が紹介されていました。「名取市×株式会社建設技術研究所」のブースでは、予約の状況に応じてAIが最適なルートを選定するオンデマンド交通「なとりんくる」を展示。バス路線の再編を受け、生活路線を代替する形で2024年4月に本格運行を始めたもので、病院やスーパーなどの指定された地点と自宅を結び、市内全域をカバーしています。来場した地方公共団体関係者からは、コストや、タクシー・バスとのすみ分け、市民の反応などについて質問があったといいます。
地域住民参加型の施策では、「春日井市×KDDI株式会社」のブースの「地域共助による自動運転」が見学者の関心を集めていました。1960年代後半に入居が開始された大規模ニュータウン内の一つの地域で、地元有志によるNPO法人が主体となり、自動運転(レベル2)のカートを使って送迎サービスを行っています。自動運転システムの開発に名古屋大学も参画するなど、産官学の連携事例となっていました。
「医療・健康・子育て」の「岩手県奥州市×MONET Technologies株式会社(MONET)」のブースには、大型ワゴン車を改造した遠隔診療車が展示されました。中山間地域での高齢化や医師不足に対応するために導入されたもので、看護婦が乗り込んで、交通手段がないなどの理由で通院に負担を抱えている患者宅を訪問。車内で診療所の医師のオンライン診療が受けられます。車にはベッドのほか、お年寄りが乗り込みやすいように大きなステップや手すりなども取り付けられています。ほかの地方公共団体では、同様の診療車が公民館などでの集団検診や保健指導、産前産後に車の運転ができない妊産婦の健診などにも利用されているそうです。MONET担当者によると、「足が悪くて通院できない人にとって病院までの距離は関係ない。導入対象は主に中山間部だが、都市部でのニーズもあるはずだ」と話していました。
このほか、「防災」コーナーでは、能登半島地震で通信の途絶えた避難所や病院、災害派遣医療チームなどに、通信器材を提供した「KDDI株式会社」がブースを展開。「Starlink(スターリンク)」と呼ばれる衛星を活用した高速インターネット通信サービスや、現場で実際に直面した配送や管理などの課題などについて説明を行っていました。器材は、無償提供しているもので、その後の7月の山形県での大雨被害時などにも、災害ボランティア活動の連絡用として携帯を貸し出すなどしているそうです。訪れた地方公共団体関係者からは、「発災時に、実際、どこまで支援してもらえるものなのか」など、具体的な質問があがったそうです。
他地域の職員同士が情報交換「貴重な機会」
「地方公共団体向けDX展示会」と銘打ったイベントだったこともあり、来場者の4割は地方公共団体関係者でしたが、出展した地方公共団体職員らも、手の空いた時間に積極的に他のブースを見て回る姿が見られました。ある北信越の地方公共団体関係者は「DX導入に伴って法令整備が必要になることもあるし、国や県の給付金のことは業者では分からない。使用感を含めて、地方公共団体職員だから聞けることが聞けた。これだけの事例を集めたところは、ほかにはないのではないか。貴重な機会だった」と話していました。
仙台市では、「DXの導入にあたっては企業との連携は欠かせない。また、導入に努力した地方公共団体の話には説得力がある。今後も、両者の話が聞けるこうした地方公共団体向けイベントを開催し、定着させたい」としています。