総務省のキーパーソンに聞くvol.3
総務省情報流通行政局地域通信振興課デジタル経済推進室 山本明央課長補佐 中谷晋輔調査員 穴井大晴担当官×フリーアナウンサー 木佐彩子氏

フリーアナウンサーの木佐彩子さんが、地域社会でDXに取り組んでいるキーパーソンにインタビューする「彩子が聞く!地域社会DX」。第4回は、「地域社会DXナビ」を担当する総務省情報流通行政局地域通信振興課デジタル経済推進室の山本明央課長補佐、中谷晋輔調査員、穴井大晴担当官です。
地域社会DXナビはどんなサイト?
木佐 まず、2024年10月に公開した「地域社会DXナビ」が、どんなサイトなのか教えてください。
中谷 「地域社会DX」に特化した、総務省公式の情報発信サイトです。地域社会DXというのは、全国の地方公共団体が抱える地域特有の課題を、デジタル技術を使うことによって解決・改善する取り組みのことです。総務省は、地方公共団体が地域のDXを進めていくための、様々な支援を行っていますが、全国的に推進するにあたって重要なポイントの一つに「情報の横展開」が挙げられています。地方公共団体にアンケートを行ったところ、DXに取り組みたいと思っても、そのためにどんなことをしたら良いのか欲しい情報になかなかたどり着けない、各種情報がいろいろなところにあっても、まとめて見られる方法がないといったことが課題として挙がってきました。そこで、似たような地域性、似たような課題を抱える地方公共団体が、どのようにデジタル技術を使い、どのような取り組みを行っているかといった情報を共有することが大切だと考えました。その情報発信の場所として生まれたのが「地域社会DXナビ」です。

木佐 スタートしてからまもなく半年(掲載日:2025年2月25日)ですが、これまでのところ、サイトをご覧になった方たちからは、どんな反応が寄せられていますか?
中谷 様々な地方公共団体がどんな取り組みをしているのか、これまでは地方のDXに関する情報をまとめて見られるサイトはありませんでした。そのため、「とても見やすくて分かりやすい」「これまで、こんなサイト見たことがなかった」「地方公共団体の目線で書かれた内容であり役に立っている」などとおおむね好評なご意見をいただいています。
多彩な先進事例ずらり、検索機能も充実
木佐 具体的にはどんなコンテンツがあるのでしょうか?
中谷 まず注目していただきたいのは、全国各地の地域社会DXの取り組みをまとめた「事例紹介」です。原稿を書く記者自身が、実際に現地に足を運んで関係者に取材し、取り組みの一部始終を分かりやすくまとめています。取りあげている地方公共団体の規模や、取り組んでいるプロジェクトの内容などは多岐にわたります。そこで、読者が見たいと思う記事にすぐにたどり着けるよう検索機能を充実させており、「地域」「人口」「分野」で事例を絞り込めるようになっています。

中谷 総務省が用意している「支援事業」も注目コンテンツです。地域社会DXに取り組んでみたいと思っていても、「知識がない」「予算がない」といった不安を感じて一歩を踏み出すことを躊躇してしまうのはよくあることです。そんなみなさんの不安に寄り添い、どんなところから取り組み始めたらよいのか、サポートするメニューがたくさんあります。
穴井 支援の詳細はもちろん、支援事業担当者からの「活用のポイント」も掲載されています。支援の目的、支援するに当たって重視している観点、上手な活用方法、といった担当者の生の声ですね。私たちが、支援を受けるに当たってここが大事だ、と思っているところを紹介していますので、これから地域社会DXの支援事業に応募しようとしている地方公共団体の方には、とても参考になると思います。
DXをわかりやすく 地域課題解決のヒントに
木佐 DXというと、何だか英語の専門用語ばかりで、難しくてとっつきにくい、という印象もあります。私たちのようなDXに関する知識があまりない、初心者向けのコンテンツも大切ですね。
中谷 はい。専門知識のあまりない方にとっても初心者の方にとっても、読みやすい工夫が必要だと考えています。例えば、地域社会DXをどのように進めていったらよいのかがわかる「1分でわかるDX推進」や、用語をわかりやすく解説した「地域社会DX用語集」は、そうした初心者の方にも親しんで頂けるコーナーです。地域社会DXについて全くわからない人にも読みやすいようにしています。記事の中で出てくる難しい用語などをクリックすると説明が出てくる仕組みも近い将来はできるようにしたいと考えています。
木佐 このサイトを活用すれば、地域が抱える問題にはどういうものがあるのか、似たような課題を抱える地方公共団体がどんなことをしているのか、などについて情報共有ができると実感しました。自分たちの地域でどういうことをしていけばよいのか、国からはどんな支援を受けられるのかなど、解決策の糸口が得られそうですね。
中谷 全国の地方公共団体が抱える課題は、地域によって異なると思いますが、参考となる事例をすぐに見つけることができる活用方法をお伝えしたいと思います。まず、トップページの検索欄から、「観光」「遠隔医療」「見守り」「鳥獣被害」など、気になるキーワードを入れて検索します。そうすると、テーマごとに参考となる事例が一覧で表示されます。それぞれの記事の中で気になるタグをクリックしても、テーマごとの一覧表示を見ることができます。こうして検索した事例を見ていただくと、他の地域でどんな取り組みをしているのか、予算はどれくらい必要か、成功要因は何なのか、解決策を実行するためにどんな企業や団体に協力してもらうとよいのか、ユーザーの声など、それぞれの地域で事業を進めるうえでのヒントを得ることができます。試しに「観光」で検索すると多くの検索結果が出てきたりします。

穴井 たとえば、「医療」は地方ではきわめて深刻な問題です。離島や都市部から遠い地域で医師が一人もいないところがたくさんあります。そんなところでは、都市部にいる医師の診察を、リモートで行う「遠隔医療」を行っているところが出てきています。その事例を見ると、どんなことをしたらよいのか、よくわかるようになっています。また、検索件数では「鳥獣被害」が比較的多くなっています。イノシシが多いのですが、サルやシカ、クマなど。中にはハクビシンというのもあります。どこに被害が出るのか地域全体を人の目で監視するのは大変ですが、センサーなどデジタル技術を使えばスマートフォンなどで状況を簡単に確認できます。そのためにはどんな設備が必要で、どんな企業や団体と協力しているのか、事例を読めばヒントがつかめます。

山本 総務省の実証事業を活用した農業や漁業の例では、ユーザーとなる農家や漁師のみなさんから、これまで経験とカンで作業をしていたけれども、ハウスの温度、あるいは、海の潮の流れや海水温などを客観的な数値で把握することができるようになり、もう欠かせなくなったとの声もいただいています。トマトやイチゴなどで、おいしくするには、いつどれだけの肥料や農薬が必要なのかなど、実際にデジタル技術が使われている例も増えています。
地域の新たな発見もこのサイトから
木佐 みなさんがこのサイトで、実際に感心したり興味を持ったりしたことはありますか?
山本 おまけのような小さな記事なのですが、「編集部のぶらり見聞録」というコーナーが意外と好評です。取材に行った記者の方が、現地の人から聞いたご当地ネタの記事で、よく知られた観光名所だけでなく、知る人ぞ知る場所や名物などを端的に紹介しています。地方公共団体などからも、よくぞこれを紹介してくれた、などという反響をいただいています。
木佐 その地域では当たり前であっても、地域以外の人から見ると珍しい、ということもたくさんあると思います。単なる観光だけでなく、地域の人が気づかないものや情報もありますね。外部から来た記者だからこそ、いろいろな発見があって面白いのでしょうね。
穴井 そのような発見はたくさんあります。珍しいマンホールのデザインは各地にあって、趣味で見て回る人がいますが、今、「マンホールカード」というものができていて、下水道の関連施設や観光案内所などで配布しているところがあります。それは知っていたのですが、「ぶらり見聞録」で「ダムカード」というものがあることを初めて知りました。ダムの管理事務所やその周辺施設で配布されているようです。
山本 出身地の静岡市では、市内の郵便ポストや看板など様々なところにプラモデルを模したモニュメントがたくさんあります。わかりやすく短い記事で紹介されているのが、うれしかったですね。

木佐 地域でDXを担当している方にとっては、有益な情報がたくさんあって、小さな読み物も面白い。このサイトを活用すれば、地域の課題解決に向けて一歩踏み出すヒントを得られ、背中をそっと押してもらえる、そんな風に感じました。
中谷 地域で奮闘されている方の中には、一人でたくさんの仕事を抱えていらっしゃる方も多いのではないかと思います。そこにいきなりDXを担当してほしいと言われても、何から始めてよいのかわからない、というケースがとても多いようです。地方公共団体のDX担当のみなさんは、様々な壁や困難に直面しています。市町村長や議会からの理解を得るのに苦労したり、予算が十分になかったり。このサイトでは、そんな不安を抱えている方にも寄り添い、サポートしていきたいと考えています。このサイトをきっかけに、隣接した地域が連携したり、離れた地域同士が協力しあったり、といった新たな動きにもつながってほしいと願っています。これからも地域社会でDXに向けてがんばっている皆さまを応援できるよう、引き続きサイトを進化させていきたいと考えています。
