総務省のキーパーソンに聞くvol.2

北海道総合通信局 岸田浩輝総合通信調整官×フリーアナウンサー 木佐彩子氏

総務省北海道総合通信局の岸田浩輝総合通信調整官とフリーアナウンサー木佐彩子さんの写真

フリーアナウンサーの木佐彩子さんが、地域社会でDXに取り組んでいるキーパーソンにインタビューし、地方公共団体がどのような分野でどのようにDXに取り組めば良いのか、そのヒントを探る「彩子が聞く!地域社会DX」。第2回は、総務省北海道総合通信局の岸田浩輝総合通信調整官です。

総合通信局とはどんな組織?

木佐 地方の最前線で地域社会DXにかかわる取り組みを進めているのが、総務省の「総合通信局」だということですが、まず、「総合通信局」というのは、どんな仕事をしている組織なのでしょうか?

岸田 総合通信局は、地域において、情報や通信にかかわるさまざまな仕事をしている国の行政機関です。総務省の地方局で、全国に10の総合通信局があるほか、沖縄に総合通信事務所があり、全国を11か所に分けて担当しています。地域住民の窓口となり、電波の監視や調査、電波障害の対策、放送サービスの高度化の推進、災害情報手段の多様化・高度化の推進、情報通信技術を活用した地域の活性化など、情報や通信、放送にかかわる、とても広い範囲の仕事を行っています。以前は、郵政省の電波監理局という名前でしたので、そちらを覚えている方も多いかもしれません。

木佐 そうすると、地域のテレビ放送についての仕事も行っているということですか?

岸田 はい、地上波放送や有線放送などにかかわる業務も重要な仕事です。たとえば、電波が届かない山間地などに共同受信施設を作るといった場合も、総合通信局がかかわることになります。今年(2024年)元日に起きた能登半島地震の際には、電波の中継所が停電等の影響で作動しなくなり、放送や通信に支障が生じた地域がありました。平時や災害時にそうした放送や通信など情報提供手段や通信手段を確保するための支援も重要な仕事の一つです。

木佐 そうした幅広い業務の中で、岸田さんの立場である「総合通信調整官」というのはどういう仕事をしているのでしょうか?

岸田 総合通信調整官は、総合通信局の重要な施策について企画や調整を行っています。特に地域社会DXに関しては、北海道の様々な団体や企業と連携し、つながりを強化して、地域の活性化のために何ができるのか、一緒に考え、取り組んでいます。

総合通信局の仕事について語る、総務省北海道総合通信局の岸田浩輝総合通信調整官

北海道総合通信局の重点施策5本柱

木佐 全国に11か所の総合通信局や総合通信事務所があるということですが、その中でも北海道総合通信局では、どんなことを重点的に行っているのでしょうか?

岸田 北海道総合通信局では今年度(2024年度)の重点施策を5本柱として公表しています。それは

①北海道における光ファイバー、5Gなどのデジタル基盤を活用した地域社会DXの推進

②ICT(情報通信技術)による防災・減災の推進

③北海道の地方創生を支えるデジタル活用の推進

④デジタル時代における放送の将来像を見据えた放送・コンテンツ制作の推進

⑤安全・安心なデジタル社会の確保

――というものです。

木佐 5本柱の一つが、地域社会DXなのですね。地域社会DXに関しては、具体的にどんなことを行っていますか?

岸田 まず、地域社会DXを推進する上で重要なのがデジタル通信網の整備です。北海道には179もの市町村がありますが、希望するすべての市町村に光ファイバー整備のための補助事業を行い、2022年7月には、整備が完了しました。今後は、このデジタルインフラを活用して、地域社会DXを推進し、成長と地域課題の解決につなげることが重要なミッションだと考えています。具体的には、厚真町にある苫東厚真発電所で、保守要員が携行する小型カメラや高画質動画電送などで、現場の状況を遠隔で確認することで、保守業務の省力化を進めることができました。また、美深町では、自動車メーカーの「株式会社SUBARU(スバル)」による自動運転の研究開発が行われています。

北海道ならではの地域社会DX

木佐 中でも北海道らしい取り組みにはどんなものがあるのでしょうか?

岸田 北海道はとにかく面積が大きいのが特徴です。全体としても、日本の総面積の約2割もあり、東北6県を合わせたよりも広いんです。農地もとても広くて、北海道が出しているデータブックによりますと、2022年の北海道の耕地面積は約114万ha(ヘクタール)で、全国の耕地面積の4分の1近くを占めています。また、農家1戸あたりの耕地面積は33.1haと都府県平均の14.4倍となっています。主要産業の一つが農業なのですが、他の地域同様、高齢化や後継者不足などの課題をかかえています。そこで課題解決策の一つとしてスマート農機の導入に期待がかかっています。具体的には、運転手が乗らずに遠隔で自動走行できるトラクターの導入があります。こうした最新技術を積極的に取り入れていくことで、農作業がより少ない人数で楽にできるようになり、ひいては後継者が増えていくことにつながっていけば良いな、と考えています。北海道内では、岩見沢市や帯広市などで、そうした実証研究が進められています。農地が広いとさまざまな問題があって、例えば広すぎて電波が届かなかったり、間に防風林があるとそれに阻まれて電波が通らなかったり、といったことがあります。

北海道総合通信局の取り組みについて話を聞く木佐彩子さん

木佐 天候などの影響で野菜が値上がりする、などということがひんぱんに起きますが、そうした最新技術の導入で野菜などがよりたくさんとれるようになり、日本の食料自給率が上がってくるといいな、と思います。たとえば若い人などからは、そうしたスマート農業に対して、どんな意見が寄せられていますか?

岸田 先日、帯広農業高校で、スマート農業について話す機会をいただきました。ドローンやロボットトラクターなどについて話すと目を輝かせて聞いてくれました。スマホなどを積極的に活用している世代ですから、スマート農業にもとても関心が高く、新しい技術を導入することにほとんど抵抗感がないと感じました。そうした世代が農業の担い手になって、北海道の農業の発展を支えていってほしいですね。また、岩見沢でのスマート農業実証事業については、道外の農家からも強い関心が寄せられています。トラクターの自動運転については、農家自身が制御する必要はありません。自動運転専門家が1か所で集中監視して、全国各地でいくつものトラクターを同時に動かすということも将来的には可能になります。

木佐 せっかく新しい技術が進んできているのですから、これを使わないともったいないですね。

地域課題の相談 小さなことでも気軽に総合通信局へ

岸田 北海道は先ほども申しましたように、とても広く、179もの市町村があります。農業以外にも、各地で多種多様な課題をかかえているのが実情です。たとえば、医療でも、拠点病院にしか専門医がいません。そのために、冬季や悪天候時などには特別な治療を受けるために、拠点病院まで車で2時間も3時間もかかってしまうこともあります。そんな場合でも、DXの活用で遠隔で診療できるシステムができると、どんなに離れた地域でも受診することができます。

木佐 地方公共団体の担当者の方も何から取り組んだらよいか分からない、あるいは担当者がいない、ということもあるかもしれませんね。

岸田 はい、市役所や町村の役場では、人手が足りず、新しい事業になかなか取り組めない事情もあると聞いています。そのような場合でも、地方公共団体の業務にDXを活用することで少しでも業務を省力化すれば、新しいことに取り組む余地もできます。私たち総合通信局では、地域課題解決のため、その地方公共団体にどんな課題があるのか明確化し、その課題解決のためにどんな方法があるのか、一緒に考えて、手助けをすることもできます。ですから、こんなことでは相談する段階ではないとあきらめたりせず、気軽に相談していただきたい、と考えています。

パネルの前で総務省北海道総合通信局の岸田総合通信調整官とフリーアナウンサーの木佐彩子さんがツーショット