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消防・防災

地域企業のキーパーソンに聞くvol.5

日本ソフト開発株式会社 蒲生仙治代表取締役社長

蒲生仙治代表取締役社長の写真

上下水道施設の状況をクラウド管理 全国でサービス提供

「日本ソフト開発株式会社」(滋賀県米原市)は、環境・防災、教育、健康と多岐にわたる分野で、インターネットを介して使うクラウドアプリケーション(アプリ)のプラットフォームを、地方公共団体を中心に提供しています。とくに環境・防災分野では、「SOFINET CLOUD(ソフィネット・クラウド)」という自前のプラットフォームを使った、上下水道のポンプ場や水門などの監視・管理をするサービスが、全国約1万か所に導入されています。ICT(情報通信技術)を活用し、わたしたちの暮らしに欠かせない「水」環境をクラウドで管理するサービスが生まれたきっかけや開発に対する考え方について、蒲生仙治代表取締役社長に聞きました。

SOFINET CLOUD で提供されているサービスについて教えて下さい

SOFINET CLOUDを使って提供しているのは、貯水池やポンプ場など上下水道施設の稼働状況を、担当者がモバイル端末でリアルタイムに把握できるサービスです。これまでは、施設内のセンサーから得られた様々な情報は、役所内に設置された「中央監視装置」で確認するのが一般的でした。しかし、その情報を、インターネットを介してクラウドで保管し、スマートフォン、タブレット、ノートパソコンのアプリを使って、いつでもどこからでもアクセスできるようにしたのです。異常時の即応だけでなく、日々蓄えられるデータを分析して異常事態を予測し、予防措置を講じることもできます。安全で安定的な「水」の管理を支える最先端のサービスだと自負しています。

上下水道事業は、担っている地方公共団体が主に使用料収入で運営していますが、人口減少にともない地方公共団体の多くで使用料収入が減少傾向になっており、その経営が厳しさを増しています。さらには、高度経済成長期に集中整備された上下水道網などが古くなり、調査や補修・交換の費用がふくらんでいます。担当職員の人数も限られるなか、私たちは施設管理の情報を効率的に集めて活用するツールを提供することで、共にこうした経営課題に立ち向かっています。

SOFINET CLOUDの画面
SOFINET CLOUDの画面

クラウド管理とはどんな仕組みですか。

2022年度に導入した滋賀県草津市の下水道事業では、市内のマンホールポンプ場109か所のセンサーをLTE網(閉域網)でつなぎ、ポンプの運転時間、異常発生の履歴などのデータをクラウドに集約しています。これによって日常点検や故障への対処を効率化できます。コスト面では、電話回線と中央監視装置を使っていた以前のシステムと比べ、初期費用で約30%、通信費や保守費などの年間維持管理費を約47%削減できたと聞いています。京都や大阪への通勤者のベッドタウンとして人口が増え続けてきた同市も、数年後には人口が減少に転じると予想されており、使用料収入の伸びに期待はできません。同市上下水道施設課主任の廣島弘基さんも「クラウド化したことで経費を抑えつつ維持管理の質を向上でき、経営健全化につながった」と好評をいただいています。

草津市役所上下水道施設課の廣島さん
草津市役所上下水道施設課の廣島さん

貴社について教えてください。

当社のルーツは、藤田義嗣代表取締役会長の父・義憲が1970年に開校した「滋賀コンピューター学院」という県内初の専門学校です。システムエンジニアやプログラマーを養成する目的で設立された学校で、当社はその2年後に卒業生の受け皿として創業しました。学校はすでに役目を終えましたが、当社はその意志を継いでDX人材育成にも力を入れ続けています。近江商人の経営哲学「売り手よし、買い手よし、世間(社会)よし」という三方よしの流れをくんで社会貢献を重んじており、学校というルーツからか失敗を恐れず、日々の改善と新たなビジネスモデルの立案に常に前向きな社風があります。その社風は、アプリ開発のプロセスなどで部署を横断して意見を出し合い、見直し改善につなげていくといったプロセスにも生かされています。

水環境に力を入れて取り組むようになったきっかけは、1977年に琵琶湖であった赤潮の異常発生です。市民生活や産業施設からの下水による湖水の富栄養化が一因でした。地方公共団体からの要請で、下水道施設の水質や稼働状況を監視するシステムをつくったのが始まりです。それを地道に改良し続け、2012年にクラウド化しました。

自社のルーツについて語る日本ソフト開発株式会社の蒲生代表取締役社長
自社のルーツについて語る日本ソフト開発株式会社の蒲生代表取締役社長

サービスが広く受け入れられているのは

SOFINET CLOUDを使った上下水道などの監視・管理サービスは現在、全国で約400の地方公共団体などに導入され、約1万の施設で使われています。政令指定都市に限ると約6割のシェアがあります。広く受け入れられているカギは「汎用性」です。様々なメーカーの装置と組みあわせることができ、必要な機能を後から付け加えていくこともできます。ゼロからDXを検討する必要がなく、導入時期がバラバラで仕組みも異なる既存の装置やシステムをまとめて更新して使えるので、初期費用を低く抑えることができるのです。アプリで“見える化”されたデータは、西日本と東日本の2か所に分散して配置した自社データセンターで保管されます。地方公共団体が独自にサーバーなどの装置を持たずに済むため保守コストを減らせるうえ、データが分散されているので「大地震など災害に強いシステム」との評価も得ています。

今後の展開は。

私たちは、約30年間にわたって培ってきた経験やノウハウを結集しSOFINET CLOUDというプラットフォームを開発しました。様々なシステムを構築し、サービスを提供してきました。しかし、現状に留まることなく、さらに新しい価値を加えてゆこうと今も努力しています。たとえば、屋外の厳しい環境で長期の連続稼働に耐える小型で低コストのIoT装置の開発に取り組んでいます。そうした装置や通信ネットワーク、Webアプリを組み合わせることで、システムはより使いやすくなります。わたしたちは毎年、20項目を超える機能を強化し、システムを進化させ続けています。なかでも、いま力を入れているのは蓄積されたデータの分析です。これまで担当者が気づきにくかったポンプなどの設備・施設の異常の兆候を検出したり、保守点検を最適化して稼働年数を延ばしたりすることを目指しています。気象情報会社のデータなどと連携させて、ピンポイントの雨量などを加味する総合管理システムを構築し分析の精度を高めたほか、カメラによる画像解析で漂流物や浮遊物などをいち早く検知することも実用化しています。

サービスが受け入れられる理由について語る日本ソフト開発株式会社の蒲生代表取締役社長

防災面でもメリットがありそうですね。

洪水対策などの防災面でも、SOFINET CLOUDは役立っています。たとえば、台風などによる道路の冠水や水没をすばやく検知するシステムなどに使われています。草津市では2025年度から、雨水を一時的に貯めて河川への流出量を調節する調整池の水位などを遠隔監視するシステムをリニューアルし、SOFINET CLOUDのシステムを導入します。調整池は、大雨などの際に被害を軽減する重要な役目を担っており、担当者は様々な情報をどこにいてもスマホなどですぐに得られ、局所的な豪雨であってもエリアごとにきめ細かな対応ができるようになると期待されています。同市河川課の勇田清孝さんからは「上下水道部など他部署と同じシステムを用いることで、異動をしても使い方を一から学ぶ必要がなくなります。災害発生時には部署間の応援も受け入れやすくなるというメリットもあります」との評価をいただいています。限られたマンパワーで業務をこなしている職員の方々の負担を少しでも軽減できるなら、開発したわたしたちもうれしい限りです。これからもIoTを活用して水環境を守っていけるよう、挑戦を続けていきます。

蒲生仙治代表取締役社長のプロフィール写真

日本ソフト開発株式会社 代表取締役社長

蒲生 仙治

がもう せんじ

1963年生まれ。滋賀県長浜市出身。同志社大学商学部を卒業後、1986年に入社。取締役東京支店長、同営業推進統括本部長、代表取締役副社長を経て、2019年8月から代表取締役社長。一般社団法人「滋賀経済産業協会」理事、「滋賀県地域情報化推進会議 滋賀データ活用LAB」座長などの職務にも就いており、地域社会DXの牽引役となっている。2022年、SOFINRET CLOUDで第16ASPIC IoTAI・クラウドアワードで最優秀賞の「総務大臣賞」を受賞した。