地方公共団体のキーパーソンに聞くvol.4

大分県商工観光労働部DX推進課 大和泉課長

県庁内外からDXアイデア続々 裾野広げる仕掛けに力

九州北東部に位置する大分県は、海や山など豊かな自然に恵まれ、面積の約7割を山林が占めています。湯布院や別府といった全国的な温泉地を擁し、温泉の湧出量と源泉数は日本一で、瀬戸内海に面した温暖な気候も背景に、古くから交通の要衝や観光地として栄えてきました。しかし、県内の人口は、1955年に約128万人のピークに達した後、大都市圏への労働力流出などにより大きく減少。2024年12月1日の総人口は、108万4,000人ほどで、国立社会保障・人口問題研究所の推計では2045年に約90万人にまで減少するとされています。こうした状況を見据え、県はあらゆる分野でデジタル技術の活用を掲げ、労働生産性の向上や付加価値を高める先端技術の活用に力を入れています。県として「ありたい姿」をどうDXで実現しようとしているのかについて、大分県商工観光労働部DX推進課の大和泉課長に聞きました。

山や海といった自然に恵まれた大分県の街並みの様子
山や海といった自然に恵まれた大分県

DXに取り組んだきっかけは。

大分県DX推進課の大和さん
大分県DX推進課の大和さん

インターネットが普及するより前の1993年に、コンピューターネットワークを研究する「公益財団法人ハイパーネットワーク社会研究所」を設置するなど、もともと大分県ではデジタル技術に力を入れてきた歴史があり、DXに取り組む素地はあったように思います。

ただ、実際にDX推進に向けて大きく舵を切ったのは、知事を本部長とする大分県DX推進本部をスタートさせた2021年からです。翌年3月には、暮らしや産業、行政など、各分野における近未来のビジョン(ありたい姿)を描いた「大分県DX推進戦略」をまとめました。戦略を作るにあたっては、すべての部署で、どのような課題を解決したいかアイデアを出し、「災害で道が遮断されても、情報や物資は途絶えず、安心して復旧を待てる」、「過疎地域でも、移動を通じて社会活動・経済活動に参画できる」といった、県として「ありたい姿」をまず描きました。

現在は、その「ありたい姿」をどうすれば実現できるのか、DXの視点も含めてソリューションを考えたり、実証に取り組んだりしているところです。2024年度の県の当初予算では、132事業約57億円をDX関連事業として計上しています。

ほかの都道府県と同じように、大分県内でも行政や中小企業、観光、医療や介護など、多くの分野で人の確保が難しくなっています。デジタル技術を活用して、そうした課題を乗り越えていければと考えています。

具体的には、どのようにDXを進めたのですか。

喫緊の課題として、まず取り組んだのが防災DXです。近年、九州では毎年のように豪雨による被害が発生しています。大分県でも2020年7月豪雨や2023年の梅雨前線による大雨などで土砂崩れなどの甚大な被害が生じました。

こうした状況の中、広域的な被災箇所の迅速な特定に向け、2023年からは衛星データ活用の研究・実証に取り組んでいます。また、ドローンを活用し迅速に被災状況を把握する仕組みも構築しています。具体的には、2023年3月に200以上の企業・団体が参加する大分県ドローン協議会と締結した「災害時におけるドローンによる緊急被災状況調査に関する協定」に基づき、同年7月に災害での調査を実施しました。その結果を基に全国で初めて発災直後に水害で孤立した集落にドローンを使って物資を届けることにも成功し、戦略で描いた「ありたい姿」に近づく大きな一歩になりました。この取り組みは、国の「Digi田(デジでん)甲子園2023」地方公共団体部門ベスト4にも選ばれました。

2023年の災害直後に被災集落に物資を運ぶドローンの様子
2023年の災害直後に被災集落に物資を運ぶドローン(大分県提供)

DX推進で工夫している点はありますか。

県内の企業のみならず、学校や個人も含めた様々なところからアイデアが飛び出してくるようにDXの裾野を広げ、実装へと結びつける仕掛け作りに力を入れています。たとえば、公益財団法人ハイパーネットワーク社会研究所の中に設置した「おおいたAIテクノロジーセンター」には、地元金融機関出身で企業に人脈があるプロジェクトマネージャーが常駐。県内企業を回って、AIを使って解決できる課題を拾い上げています。

大分県のAI活用推進の取り組みの図
大分県のAI活用推進の取り組み

企業・団体が独自にAI開発をしようとすると、GPU(画像処理装置)の導入などに大きなコストがかかるのですが、アイデアを申請してもらえればGPUも無償で貸し出しています。住民なら誰でも参加できるAI勉強会「Oita AI Cafe」を実施しているほか、アイデアソンやビジネスコンテストなどで出てきたアイデアを、ビジネスプロデューサーが伴走して実装につなげる制度もあります。アイデアやビジネスのシーズ(種)さえあれば、誰でもビジネス創出へと動き出せる環境を整えています。

実際、企業以外のアイデアで開発を進めている取り組みもあります。たとえば、現在は人の目で品質(等級)を選別している県産いちご「ベリーツ」については、高校生が中心になってAIを使った自動選別に挑戦しています。省力化を図る狙いがあり、同センターが伴走する形で地元の農業組合とも連携して進めています。また、ある保育園からは保育士の事務業務をAIで省力化するアイデアが出され、県内での横展開を目指しているところです。

特に、高校生が主体となり地域を巻き込みながらDXを推進していくモデルについては、内閣府が主催する日本オープンイノベーション大賞にノミネートされた実績もあり、全国から注目されています。単なる技術導入にとどまらず、地域全体を巻き込む仕掛けや仕組みづくりに重点を置いていることが、大分県のDX推進の特徴です。

庁内体制で工夫していることはありますか。

CXO(チーフ・トランスフォーメーション・オフィサー)である知事を先頭に、幹部、若手の垣根なしに、全職員に対し、基本となるマインドや技術を身につけるための研修を実施しています。なかでもDX推進リーダーを全庁に広く設け、その年のリーダーとなる150人ほどに集中的に研修を実施しています。徹底しているのは「どうありたい」かビジョンを思い描いて、解決策を探るという「デザイン思考」を身につけることです。この手法を活用し、翌年度以降の施策検討・立案を実施しています。

副業人材(外部人材)の活用にも力点を置いています。県は外部人材3人をDX推進アドバイザーとして委嘱し、各部局の研修や勉強会で機運を高め、DXの伴走支援などに活用しています。職場内で「アイデアコンテスト」を開き、DX施策に結びつける工夫をしている部局もあります。

大分県のDXの進め方のイメージ図
大分県のDXの進め方

今後、DXをどのように進めていくのでしょうか。

戦略策定を機に様々なボトムアップの仕掛けや支援体制を整備し、DXのアイデアが県庁内、企業、団体、個人などいろいろな所から生まれてくる土壌を作り、いまようやくそれが実を結び始めてきたところ。今後も引き続き、県内の市町村、企業、団体などのDXに伴走する仕組みを充実していきたいです。

DXを進めていくうえで大事なのは、チャレンジする姿勢です。公益財団法人ハイパーネットワーク社会研究所はいま、将来の地域課題解決につながる可能性があるのではないかということで、量子コンピューター研究に取り組み始めました。私たちも、DXという新しいものに取り組んでいる最中ですので、途中で問題が生じたり、失敗したりということもあるでしょう。しかし、その時はいろんな人と知恵を出し合い、都度、改善していけばよいのであって、まず一歩踏み出すことを大事にしたいと思っています。

デジタル技術を使った課題解決に取り組むDX推進課のメンバーの集合写真
デジタル技術を使った課題解決に取り組むDX推進課のメンバー

研究所で取り組む高度な研究の一方で、県が実施するDXのベースは県民目線の身近なものでありたいとも考えています。本当に住民が求めている施策なのか、デジタル技術ありきになってはいないか、ほかの県がやっているから、今までそうしてきたから、などと思考停止に陥っていないかを自問しながら、戦略に描いた「ありたい姿」を一つずつ実現していきます。

大分県商工観光労働部DX推進課長大和泉さんのプロフィール写真

大分県商工観光労働部DX推進課長

大和 泉

やまと いずみ

1994年に大分県庁入庁。ウォーキングなどでポイントが付与され特典が受けられる健康アプリ「おおいた歩得(あるとっく)」の新規導入、県公式「おんせん県おおいたオンラインショップ」による県産品の販路拡大などを担当。2024年より現職。