イベントレポートVol.1 「自治体・公共Week2024」
地域の課題解決を目指し、最新のDX技術や地方公共団体のDXに関する取り組みを一堂に集めて紹介するイベント「自治体・公共Week2024」(主催・自治体・公共Week実行委員会)が6月26日から28日までの3日間、東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催されました。全国各地のDX活用の最新事情をまとめて知ることができるとあって、来場者数は3日間合計で1万9,992人に上りました。
活気にあふれた6つの専門展 VRによる走行体験も
イベントは、6つの専門展(自治体DX展、地方創生EXPO、地域防災EXPO、スマートシティ推進EXPO、自治体向けサービスEXPO、インフラメンテナンス展)で構成。防災対策や業務効率化、医療、鳥獣被害対策や観光振興、農業・漁業支援、新しい通信ネットワークの活用など、まちづくりや地域活性化につながる多岐にわたる製品やサービスを紹介する計326社のブースが出展されました。来場者は、企業が展示しているサービスを比較したり、地域課題について個別に相談したりして、効率良く情報収集できるのが特長です。取り組みを発表するステージや、実際にサービスを体験できるブースも設けられ、最新技術を試してみたいという来場者らでにぎわいました。
たとえば、「スマートシティ推進EXPO」では、「ヤマハ発動機株式会社」と「日本自動車連盟(JAF)」との共同出展で、時速20km以下で公道を走ることができる電動車を使った移動サービス「グリーンスローモビリティ」を展示。来場者はゴルフカートをベースとした車両に乗り込み、仮想現実(VR)による走行体験を試すことが出来ました。VRでは、実際に車両が運行しているという岡山県内の街並みが映し出され、体験した人たちは町なかを走行するイメージを膨らませていました。こうした車両は、過疎地における高齢者の移動や、観光周遊など、地域交通での活用が期待されているといいます。
DX担当者の思いがつまった多様な講演
特設会場では、「小規模自治体でもできるDX推進」「まちの魅力を最大化する観光DX」「スマートシティ推進のポイント」などをテーマにした、地方公共団体や企業のDX担当者による講演会も開催。観光振興や自動運転、役場内の人材育成など狙いをしぼった計15個におよぶ講演に、来場者は熱心に耳を傾けました。
「城崎温泉」宿泊予約データを活用し、客室平均単価アップも
講演会では、成果につながった地域DXの好事例が数多く紹介されました。兵庫県豊岡市の「一般社団法人豊岡観光イノベーション」の島津太一事業本部長が紹介した、城崎温泉での観光DXの取り組みもその一つです。同市では、2022年に観光に関するDXを推進する組織「豊岡観光DX推進協議会」が発足。宿泊予約データを収集・分析し、事業者の収益最大化を図るDX事業に取り組みました。これにより、それまでデータの集計・分析に3か月ほどかかっていた宿泊予約の傾向がリアルタイムで把握できるようになり、予約が好調な日は、素泊まりを減らして朝夕2食付きの高付加価値プランを増やしたりするなど、平均客室単価を前年同日比で30%アップさせた旅館もあったといいます。
岡崎市「市街地再生」へ人流データなどを分析・活用
また、総務省の地域情報化アドバイザーも務める、愛知県岡崎市総合政策部デジタル推進課の鈴木昌幸戦略係長からは、「市街地再生」「観光客増」に取り組んだ好事例が紹介されました。同市では、街歩きを楽しむ観光客を増やそうと、リアルタイム人流データを使って駐車場の混雑情報を提供したり、観光客の利用のピーク時間を分析して自転車のシェアリングサービス「サイクルシェア」の売り上げ改善につなげたりしています。鈴木さんは「自治体職員だけで解決することが難しい場合は、総務省が提供する地域情報化アドバイザー制度の活用、また新規の事業を立ち上げる際には国の支援メニューの活用が大きなカギになると思います」と話していました。
「Digi田(デジでん)甲子園」優良事例を紹介
このほか、内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局主催の「Digi田(デジでん)甲子園2023」で表彰された企業・団体の取り組みも紹介されました。Digi田(デジでん)甲子園は、地方公共団体や民間企業などから、デジタルの力を活用して地域課題の解決に取り組んだ事例を幅広く募集し、優れた事例を表彰する取り組みです。
たとえば、民間企業・団体部門で優勝したアプリケーション(アプリ)「罹災(りさい)証明迅速化ソリューション」に関しては、実際の災害時に活躍した事例が報告されました。このアプリは、「罹災証明書」の発行遅れが生活再建の遅れにつながっているという社会課題の解決を目指して開発されたものです。これまで手作業だった被災者の住居把握や調査計画の立案などを自動でできるようにし、大分県日田市で実際に起きた水害では、罹災証明書の発行を迅速化し、過去の災害に比べて作業時間や手間を大幅に減らすことができたそうです。
また、準優勝した、西国分寺駅(東京都国分寺市)に2022年に開設されたJR東日本の「スマート健康ステーション」の取り組みも紹介されました。駅のホーム上に設けられた日本初のクリニックで、対面またはオンラインで受診ができるのが特長です。仕事で通院しにくかった働き盛りの世代の受診を促し、世代間の医療格差解消やオンライン診療による医師の働き方改革に役立っているといいます。
来場者の声 「目指す目標は一緒」
関東地方の地方公共団体でDX推進を担当しているという男性は、「他の地方公共団体の担当者と話をして、目指すゴールは一緒だと感じました。また、ブースを見学して回り、導入できそうな機器やサービスを見つけることもできました」と、声をはずませていました。また、関東地方の別のDX担当者も「住民窓口のDXに取り組み始めていますが、防災情報の伝達や地域の人手不足など、ほかにも課題はたくさんあります。イベントで集めた情報も参考にしたいと思います」と話していました。ブースを出展した事業者からも、「地方公共団体の皆様が今何を求めているか、どんなニーズがあるかが分かり、DX技術を開発するうえで勉強になりました」との声が上がっていました。
来年も開催 「自治体・公共Week2025」
「自治体・公共Week2025」は、2025年7月2日から4日までの3日間、東京ビッグサイトで開催されます。是非みなさんも会場に足を運んでみてはいかがでしょうか。