総務省の支援事業

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消防・防災

アンダーパス冠水の監視 Wi-Fi HaLowで負担軽く

富山県高岡市

地域

富山県

人口

5万人以上10万人未満

高岡ケーブルネットワーク株式会社 深澤浩 取締役事業統括本部長(写真左)
高岡市都市創造部土木維持課 中澤俊一課長(写真右)

富山湾に面し、立山連峰の雄大な景色を楽しむことができる富山県高岡市。美しい自然に囲まれている一方、市街地は急流河川が流れ込む扇状地となっており、河川の氾濫などによる水害に悩まされてきました。近年はゲリラ豪雨や線状降水帯による大雨が増え、職員がアンダーパス(市街地で道路や鉄道等と交差し、前後区間に比べて急激に道路の高さが低くなっている区間)を現地で監視しながら冠水に備えるケースもしばしば発生しています。そこで、市は総務省の「令和5年度地域デジタル基盤活用推進事業」を活用し、新たな無線技術「Wi-Fi HaLow」を使ったアンダーパスのリアルタイム遠隔監視のシステムづくりに乗り出しました。災害時の業務を効率化し、効果的な防災対策を講じるのが目標です。取り組みの成果や今後の展望について、「高岡ケーブルネットワーク株式会社」の深澤浩取締役事業統括本部長と高岡市都市創造部土木維持課の中澤俊一課長に聞きました。

地域デジタル基盤活用推進事業の応募のきっかけを教えてください。

深澤さん 地域の通信事業者として、新たな通信技術「Wi-Fi HaLow」を使って地域に貢献できるシステムを構築したいと思ったことがきっかけです。

Wi-Fi HaLowはWi-Fiと比べると通信速度は遅いものの、伝送距離が10倍以上の約1kmと長く、あらゆるものをインターネットでつなぐIoTの通信システムを担う技術として期待されています。無線で1km先まで映像を送ることができるというのは、夢のような技術だと思って飛びつきました。Wi-Fi HaLowという新しい技術の検証も含め、地域デジタル基盤活用推進事業の実証事業を活用して成果を上げることが出来れば、これまでにない新しい取り組みにつながると思い、高岡市さんに相談しました。

高岡市内のアンダーパスの前に立つ深澤さん
高岡市内のアンダーパスの前に立つ深澤さん。
冠水時の注意を呼びかける表示が設置されている

中澤さん 新しい通信システムでどんな課題を解決できるのかも含め、しっかり計画を練ろうと考え、まずは無料で専門家に伴走してもらえる2022年度のローカル5G等導入計画策定支援に申請しました。市の未来政策部情報政策課が担当窓口となり、専門家の助言を受けながら、さまざまな角度から市が抱える課題を検証。最適な課題として、「アンダーパスの監視」の効率化という課題に焦点をあてました。こうした助言を踏まえて検討できたことで、計画づくりまでスムーズに進めることができました。

アンダーパスについて、どのような課題を抱えていたのでしょうか。

中澤さん 高岡市内には、富山県が冠水想定箇所としているアンダーパスが8か所あります。ゲリラ豪雨などの大雨時には、交差する道路などの下を通るアンダーパスが冠水し、進入した車両が立ち往生する事態に陥ることもしばしばです。冠水リスクがある時は職員が現地に向かい、目視で状況を確認しながら、車両の進入を禁止するなど交通規制を行っています。もし、職員が現地に駆け付ける以外に、水位などアンダーパスの状況を把握できる手段があれば、災害時の人員配置が効率化できると考えました。

アンダーパスの通行止めの表示を持つ高岡市の中澤さんと渡邉裕貴さん
アンダーパスの通行止めの表示を持つ高岡市の中澤さんと渡邉裕貴さん
市職員が現地に行き、通行止の表示を設置する

計画策定支援を受けることで、どのようなメリットがありましたか。

深澤さん 支援を受けたのは2023年2月から3月末までですが、市の費用負担なしで専門家のアドバイスを受けることができる点は大きかったです。計画策定に向けた進め方を教えてもらえることもそうですが、市の課題を洗い出し、どの課題に焦点を絞ればよいかなど、段階に応じてアドバイスを受けることができる点でもとても助かりました。Wi-Fi HaLowの特長である、「通信費がかからない」「通信速度は特別速くないものの、ほどよいスピードと画質」という点を生かせる課題ということで、数ある課題の中からアンダーパスの監視に適しているだろうという結論を出すことができました。

中澤さん 将来的に高岡市の人口が減少し、歳入減が予測されるなか、コストを抑えることや職員を効率的に配置できるようにすることも目標の一つでした。アンダーパスの課題を解決できれば、巡回などにかかる職員が少なくて済むので浸水対策など他の業務に振り向け、効率的な人員配置ができるだろうという期待もありました。

実証事業の成果について教えてください。

深澤さん 実証事業では、監視カメラでアンダーパスの水位表示板を撮影。その映像をWi-Fi HaLowを使って、送信できることを確認しました。そのリアルタイムの映像は、市庁舎のパソコンや高岡市土木維持課の担当職員のスマートフォンなど複数の端末で閲覧できるようにして、職員が現地を巡回せずとも遠隔で水位を把握できるシステムを構築しました。リアルタイム映像に加え、過去の水位などもさかのぼって確認することができ、降水量のデータなどから冠水開始時間を自動で予測することもできます。実証コストは1,586万円。国の負担で賄うことができました。今後は映像だけではなく、アンダーパスの冠水に反応するセンサーを設置し、その情報をもとに水があふれる前にアラートを担当職員に通知するほか、現地でも自動でランプを点灯させて住民に注意を呼びかける仕組みを考えています。

水位などアンダーパスの状況がパソコン画面など遠隔で確認できる様子
水位などアンダーパスの状況がパソコン画面など遠隔で確認できる
アンダーパスに設置された監視カメラ
アンダーパスに設置された監視カメラ

中澤さん 2023年12月から、実際に閲覧できるようになったのですが、これまで目視で確認していたのと同じように、水位など現地の状況を十分確認することができることが分かりました。実装が可能なレベルだと感じました。

今後の展望を聞かせてください。

中澤さん 高岡市は、北は富山湾に面し、西側は丘陵地帯です。地震の時は津波、大雨では土砂災害や洪水被害の恐れもあります。災害と常に隣り合わせのなか、人口減少が進む市の職員数が増えることは想定できません。市民生活の安全を守るためには、効率的で効果のある災害対策を進めていくことがカギとなります。今後、実装に向けて、冠水センサーや、現地の危険を伝える回転灯を追加するなど、システムの機能を高めていくことを考えています。そしてアンダーパスの安全性を確保していきたいです。また、アンダーパスだけでなく、他分野にも遠隔監視の対象を広げていければと考えています。

深澤さん これまで遠隔監視システムは、使えば使うほど通信費用が膨らむのが導入のネックの一つとなっていました。Wi-Fi HaLowを活用したシステムは、比較的低コストで実現できる利点があります。河川の水位監視など、ほかにも活用できることはあると思うので、地域の通信事業者として使い方を考えていきたいと思います。

深澤さんら高岡ケーブルネットワークのプロジェクトチームのメンバー左から表野篤雄さん、深澤さん、熊田貴一さん
深澤さんら高岡ケーブルネットワークのプロジェクトチームのメンバー
左から表野篤雄さん、深澤さん、熊田貴一さん

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