2
住民生活

ごみ・資源収集の効率化と対応の改善実現を目指すDX

神奈川県藤沢市

【課題】人口44万、世帯数20万超の市の「ごみ戸別収集」を支える

神奈川県藤沢市は、東京の南西約50kmに位置する人口約44万人、世帯数20万超の地方公共団体です。湘南エリアに属するうえ、交通の便がよく商業施設も充実していることなどから、首都圏のベッドタウンとしても発展してきました。

一般家庭から出される可燃ごみと不燃ごみの収集については2007年度から、戸建て住宅や集合住宅ごとに収集する戸別収集方式で実施しています。集積所を設けて収集するそれまでのやり方では、複数世帯のごみともなれば大量で歩道を塞いでしまい、通行の妨げになるといった問題が起きていたからです。資源ごみは一部の品目をのぞいて、2012年度から戸別収集に移行しました。

集積所のごみで歩道がふさがれている様子
集積所のごみで歩道がふさがれている(左)
戸別収集により道路がスッキリしている様子
戸別収集により道路がスッキリ(右)

しかし、戸別収集では収集箇所が増えるため、収集員の負担増や取り残しといった別の問題が生じました。また、市民によるごみの出し間違いや、「収集車が既に自宅を通過したのか否か」といった個別の問い合わせへの対応などに時間を割くことにもなりました。そこで、市は、ごみの収集とそれに伴う市民対応業務の効率化を図るため、様々な場面でDXを推進することにしました。

【取り組み】ごみを収集する側と出す側の双方に向けたサービス

藤沢市のごみ・資源収集の効率化におけるDX推進は、収集する側向けと、ごみを出す側向けの双方で取り組んでいます。

まず、収集する側では、環境行政に関わる職員の情報共有手段として、収集場所の管理や不適切に排出されたごみの把握、不法投棄、落書きなどの情報を登録・閲覧できるアプリケーション(アプリ)「藤沢みんなのレポート」を、市内にキャンパスがある「慶應義塾大学SFC研究所」と2016年に共同で開発し、試行的に運用を開始しました。このアプリは、収集員らがスマートフォン(スマホ)やタブレット端末で撮影した位置情報付きの現場の画像データやコメントを他の職員と共有するプラットフォームで、問題事象へのリアルタイム対応と業務の効率化につなげることを目的としたものです。収集車の運行日報もアプリで入力できるようになり、従来の紙を用いた手書き・ファクス送信の簡便化も図られました。

職員が現場撮影している様子
「みんなのレポート」の画像、写真
「みんなのレポート」の画像、写真

収集員らのアプリ利用の習熟度を踏まえ、市はさらに収集業務専用のシステムである「小田急電鉄株式会社」が提供する「WOOMS」というシステムを導入し、市の収集車にGPS機器を搭載しました。収集ルートや運行時間、収集量などの情報が画面上に表示されるので、状況をリアルタイムで把握することができます。これにより、市民からの問い合わせや、トラブル発生時のルート変更や応援調整などへの即時対応を目指します。また、日々の収集量や道路事情を蓄積・反映することで、収集車の効率的な運用にも役立つことが期待できます。

ごみ収集車の収集ルートなどをリアルタイムで表示するWOOMSの地図画面
藤沢市ごみ分別アプリの画面

一方、ごみを出す市民に向けては、スマホで利用する「藤沢市ごみ分別アプリ」を開発し、2018年6月に配信を開始しました。ごみや資源の分別や収集日が簡単に分かるものです。分別分類がわからないごみについては、市民が、市の環境事業センターに画像添付で尋ねることができる機能も備えています。

【成果】問い合わせへの対応時間短縮に道筋。収集員のミス削減支援にも

DX推進による効率化の成果は、市民からの問い合わせへの対応時間の短縮化に顕著にみられました。例えば、「収集車が既に自宅を通過したか否か」の照会では、DX化以前は、「照会者に住所などを聞く」「コース図で収集車を特定」「無線で収集担当者に確認」「照会者に折り返す」という段取りで、1件あたり15分程度の時間を要していました。こうした照会は1日に平均で20件ほどあるので、合計では日々300分ほど費やしていたことになります。これが、収集状況を画面上で確認できるシステムを導入後には、1件当たり5分程度に短縮できています。1日の総時間数は平均300分程度から100分程度になり、従来の3分の1に削減できる計算です。

また、収集員の見落としによるごみの収集漏れなどは、戸別収集方式が浸透し習熟度が高まった現在でもみられます。こうしたケースをデータベース化して共有、同様のミスが起こらないように収集員をシステムで支援することにより、ごみ収集の「質」の向上にも繋がっていると考えています。

【推進体制】市、第三セクター、事業者協同組合の3者が連携

藤沢市のごみ収集業務は、市と、委託先である「株式会社藤沢市興業公社」(第三セクター)、市内の廃棄物関連事業者など29社で構成する「藤沢市資源循環協同組合」で実施しています。DX推進においても、市のリーダーシップの下、3者が連携して検討を重ね、共通のシステムを開発する体制です。システム開発では、収集作業の運転手50人程度から要望を丁寧に聞き取りました。導入後も、使い勝手などを運転手に確認し、改善につなげる仕組みを設けています。市は、現場の改善マインドが有意義な問題提起につながると考えており、「藤沢市スマートシティ基本方針」などの意識共有にも努めています。

また、慶應義塾大学SFC研究所の研究者から、様々な知見やアイデアの提供を受けているのも特徴です。一方、システムの開発・運用パートナーは基本的に単年度契約とし、現在は、WOOMSを活用しています。

市内部の推進体制としては、「藤沢市DX推進計画」に基づいて環境部でも設けられた「DX推進リーダー」が、市全体のDXを担う企画政策部デジタル推進室と随時連携しながらシステムの導入などを主導しています。

【展望】災害時の被害状況把握などに収集車を活用も

藤沢市では、DXの推進で収集車をごみ収集業務以外に活用することも検討しています。具体的には、収集車に高精細カメラを搭載して走行させ、災害時は被害状況の把握に、平常時は道路の陥没などの発見に活用することなどが考えられます。また、市は、収集車に取り付けたセンサーでゴミ袋の数やサイズを自動的に測定、地域別・季節別のごみ排出量を推定・可視化・解析する実証実験にも参画しています。産官学が連携したこの実験は、「国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)」が実施している「令和4年度高度通信・放送研究開発委託研究」に採択されたもので、研究期間が2022年度から2024年度まで3年間続く実験であり、ごみのより効率的な収集活動に貢献するものと期待されています。

本事例のポイント

1. 地域社会DXの取り組み経緯と主な対象分野・藤沢市では、一般家庭などから出るごみについては、2007年度に戸別収集方式へ切り替えた。戸別収集による成果がある一方で、ごみ収集関連業務の増大及び複雑化を招くことになり、その効率化を目指したDX推進に着手した。
2. 基本的な位置づけ・考え方・藤沢市スマートシティ基本方針(2022 年4月)の中で、めざす社会像として「カーボンニュートラルの実現により、将来に受け継がれる環境にやさしいまち」を位置づけ、その取り組みイメージの一つとして、スマートセンサーなどによるごみ収集の効率化を挙げている。
・ごみ収集業務を担う事業者との連携、産官学の知恵を結集した取り組みを目指している。
3. 推進体制 その1.行政内部の体制・藤沢市環境部のDX推進リーダーが、市全体のDX推進を担う企画政策部デジタル推進室と随時連携しながら、システムの導入・運用などを主導している。
4. 推進体制 その2.住民・企業・大学などとの連携体制・ごみ収集業務は市役所、第三セクター、組合の3者が継続的に担い、市のリーダーシップの下、共同でDX推進にあたっている。
・市内にキャンパスがある慶應義塾大学などの研究者から様々な提案やノウハウを受け、デジタル技術を生かしたごみ収集の効率化などを進めている。
5. 個別プロジェクトの計画策定・既存の業務のうち紙マニュアルで対応しているようなデジタル化を進めやすいかつ最も効果が出そうな業務から着手し、デジタル化に対する関係者の納得感を得ながら、段階的にDX範囲を広げていく方針としている。
6. 個別プロジェクトの進め方・藤沢市のごみ収集を担当している事業者の約50人の運転手から各種要望を丁寧に聞き取ってシステム開発へ反映している。
・また導入後においても、月に1回の定例会議の際に、現場での使い勝手などを確認し、必要に応じてシステム改善へ繋げる仕組みを設けている。
7. 個別プロジェクトの評価と継続発展・市民からの問い合わせ対応業務において、従来は1件当たり15分程度を要していた業務を、5分程度で対応できるようになっている。
・産官学で、次の段階のDXプランの実証事業を進めている。

地域のプロフィル

人口:443,269人(2025年3月1日現在)、面積は69.56㎢

藤沢市は、相模湾に面する湘南地域の一部を成し、市内には境川や引地川が流れ、北部は平地、南部は丘陵地が広がる自然環境に恵まれた地域である。古くから宿場町や門前町として栄え、特に、江戸時代には東海道の藤沢宿が置かれ、多くの旅人で賑わった。現在も江の島神社や片瀬海岸など湘南地域特有の文化や伝統が受け継がれており、観光業が主要産業の一つとなっている。また、首都圏近郊に位置する都市であることから、商業やサービス業も発展している。