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交通

地域の未来を見据えたレベル4自動運転バスの導入プロジェクト

群馬県前橋市

【課題】利用者の減少、ドライバー不足で、将来バス運行が困難に

前橋市は住民1人当たりの自家用乗用車保有台数が全国トップクラスのマイカー王国です。ちょっとした用事や買い物でもマイカーを利用する人が多く、公共交通機関の利用者は多くないのが実情です。

このままでは公共交通機関が維持できなくなり、運転免許を持たない若者や高齢者の移動が困難になってしまう。そんな危機感から、前橋市は公共交通の改革に取り組んできました。特に、バスについては運転免許を持たない住民の足を確保する観点から、市がバス会社に対して毎年数億円を拠出し、一定の路線維持に努めてきました。

しかし、近年バスのドライバー不足が顕在化してきたことで、収支以前の問題として、現状の路線やダイヤ運行の維持が困難な状況に直面しています。今後、高齢化の進行にともない、マイカーを利用できない住民が増えていくことが想定され、補助金でバス会社の赤字を補填するといった対症療法的な施策は限界を迎えています。バス路線を維持・再編しつつ、利用者を増やしていく必要があるのです。

そこでドライバー不足を克服しつつ、一定の路線を維持する方策として力を入れているのが、公道での自動運転によるバス運行の実現です。

前橋市内を走る自動運転バスの様子
前橋市内を走る自動運転バス

【取り組み】住民参画型で自動運転技術の開発・実証積み重ね

自動運転バス導入に向けて、前橋市は住民参画型の取り組みとしていくことを重視しました。最終的に、自動運転バスが住民の足として利用してもらえなければ、新しい技術も事業体も意味を持たないからです。

このため、前橋市は初期の段階から地域住民向けの説明会を開催し、住民との直接対話を重ねました。さらにアンケート調査を実施した結果、住民が移動手段の確保を重視していることや自動運転について肯定的な意見が多数を占めていることが分かり、事業を進める推進力になったといいます。

2018年には群馬県と群馬大学が文部科学省の「地域科学技術実証拠点整備事業」を活用して、研究拠点となる「群馬大学次世代モビリティ社会実装研究センター(群馬大学CRANTS)」を強化、初期の実証実験に着手しました。2019年には、部分的に運転が自動化された自動運転レベル2のバス2台を同時運行する実証実験を国内で始めて実施。2020年及び2021年には、群馬大学の試験路や上毛電鉄中央前橋駅前の交差点で、遠隔操作管制による自動運転の実証実験をスタートさせました。

自動運転バスを制御する遠隔管制室の様子
自動運転バスを制御する遠隔管制室の様子

いよいよ2022年からは内閣府の「デジタル田園都市国家構想交付金」を活用し、運転手なしで走行する自動運転レベル4の社会実装に向けて、技術開発や事業として成り立たせるための課題の精査を進めています。 この間、住民参画型とする観点から、実際の営業路線で乗客に賃金を支払って乗ってもらう形での実証実験を何度も実施。その結果、技術開発陣の間で「社会実装して地域の人に使ってもらうためにはどうすればいいのか」という視点が共有され、住民の生の声を技術開発などにフィードバックできたといいます。

期間モード概説
前半(2018~2021年)個別技術の開発・検証個々の技術が持つ性能などを追求する進め方
後半(2022年~)社会実装に必要な技術の開発最終的な社会実装の姿を描いて、そこから逆算的に必要な技術を定義し、開発する進め方
技術開発のモード

【推進体制】産官学が密に連携。民間の力を最大限に生かす

前橋市ではこれまで、交通政策課が情報政策課DX推進室と連携しながら、公共交通改革を進めてきました。2021年9月には、全国3例目となる独占禁止法特例法(「令和2年法律第32号」)による認可を受け、市内バス事業者6社11路線が共同経営でバス運行を始め、利用者のニーズに沿ったダイヤ調整などで利便性を向上。バス、電車など交通手段の検索・予約・決済などを一括で行えるサービスであるMaaS(Mobility as a Service)の導入や交通系ICカードとマイナンバーカードを連携させ、高齢者や学生の割引など属性に応じたサービスも展開してきました。

そのうえで、自動運転バスの実証事業に乗り出すにあたり重視したのが、産官学連携体制の構築です。既に、群馬大学CRANTS、「日本中央バス株式会社(日本中央バス)」との間で2017年に連携協定を締結しており、これが土台となり前橋市が加わる連携体制の構築に結実しました。具体的には、前橋市が実験フィールドの提供や関係機関との調整、情報発信を担い、群馬大学CRANTSは実際に実証実験を実施。日本中央バスは運転技術や運転手の提供などを担当しました。

さらに、全体統括は「一般社団法人ICTまちづくり共通プラットフォーム推進機構(TOPIC)」が担い、技術開発についても群馬大学CRANTS発のベンチャー企業「日本モビリティ株式会社(日本モビリティ)」が中心となるなど、民間企業の力を最大限に生かす方針で進めました。前橋市としては「試行錯誤しながらダイナミックに事業を拡大していくことができるのは行政より民間」との判断に加え、自動運転の国内トップランナー地域として、ここから新たなビジネスを全国に広げていく布石としたい思いからです。

組織名役割
前橋市実験フィールドの提供、公共機関など関係機関との調整、情報発信など
群馬大学CRANTS⾃動運転システム実証実験パッケージの提供及び実証実験の実施、その他関連する⾃動運転実証実験事業など
日本中央バス運⾏に関する⽀援及び⾞両運転者などの提供、⾞両運転に関する技術の提供など
連携協定メンバーと役割

【成果】事業開始へ必要な技術、運営体制など確立。認可手続きへ

前橋市では、これまでの実証事業を通じて自動運転に求められる技術的要件をみたすレベルまで到達したと判断しています。日本中央バスのオペレーションや群馬大学CRANTS、日本モビリティとの連携体制も確立することができ、「実際に事業を開始する準備は整った」として、国土交通省に認可申請する準備を進めています。

実証事業によって、自動運転バス導入の効果も見えてきました。①ドライバー不足解消やバス会社の収支改善につながる②利用料金の値上げを抑えることができる③運転手の確保という制約なしに需要に応じて運行数の増加が可能④中心市街地への人流増が期待できる――などです。

これに加えて、自動運転のトップランナーとしての前橋市のブランド力向上、地元事業者のビジネス拡大といった効果も期待できるほか、官民双方のDX人材の育成にもつながると見込まれています。

【展望】前橋駅~中央前橋駅間からスタートし、他路線への展開目指す

前橋市は現在、第三者機関(「一般財団法人日本自動車研究所」)による自動運転技術の検証作業を進めており、この結果も踏まえて、2025年度に国土交通省に認可を申請する方針です。まずはJR前橋駅から上毛電鉄中央前橋駅間の約1㎞をシャトルバス区間として、搭乗型自動運転で運行し、その後、他路線への展開を計画しています。ドライバー不足を克服しつつ、一定の路線を維持する方策として力を入れている自動運転によるバス運行の実現に向けた取り組み。自動運転のトップランナーとして、前橋市をはじめとした産官学連携体制が共に走り回り、未来を創造する動きはこれからも続きます。

本事例のポイント

1. 地域社会DXの取り組み経緯と主な対象分野・路線バス利用者の減少、バスのドライバー不足が顕在化しはじめ、バスの運行そのものが物理的に難しくなっている状況を鑑み、路線バスの自動運転技術の開発・実装の検討を進めた。
2. 基本的な位置づけ・考え方・行政からの補填で既存のバス路線を維持するだけでなく、路線の再編や共同経営、ICT技術の活用により利用者が使いやすい交通システム・環境の構築をおこなっているが、運転手不足を補完し運行コストの減少をさせるべく、自動運転技術の導入を決めた。
3. 推進体制 その1.行政内部の体制・未来創造部内において、公共交通などを所管する交通政策課と市役所内の業務効率化などを所管する情報政策課DX推進室とが随時連携しながら進めている。
4. 推進体制 その2.住民・企業・大学などとの連携体制・市との密な連携のもと、地元の一般社団法人ICTまちづくり共通プラットフォーム推進機構(TOPIC)が実証事業のプロジェクトマネジメント役を担っている。バスの自動運転システムや通信環境の構築などの技術面は、群馬大学次世代モビリティ社会実装研究センター(群馬大学CRANTS)と日本モビリティ株式会社が担当しており、通信会社やICTベンダーなどとの連携も適宜進めている。
5. 個別プロジェクトの計画策定・技術開発が成功しても、住民が自動運転バスを利用しなければ意味が無いと考え、事業開始当初から住民参画型の進め方をとった。
6. 個別プロジェクトの進め方・目指す姿を具体的に描き、その実現に向けた仮説を立てて検証する、といった進め方を重視した。また、実際の営業路線や公道を使用し、乗客を乗せた実証をおこなうことで、技術課題などの早期発見と対応を目指した。
7. 個別プロジェクトの評価と継続発展・国土交通省による認可を前提として、2025年度中に、自動運転バス(レベル4)を市内の公道で実用化できるところまで来ている。先ずは、JR前橋駅-上毛電鉄中央前橋駅の約1㎞をシャトルバス区間における自動運転で運行し、その後、他路線へ展開する計画である。

地域のプロフィル

人口:328,536人(2025年2月末日現在)、面積は311.59㎢

群馬県の県庁所在地で、県の中央部に位置し、市の北部には赤城山がそびえ、利根川が市内を流れる豊かな自然環境を持ち、冬は乾燥した晴天が多く「からっ風」と呼ばれる強い北風が特徴となっている。JR両毛線や上毛電鉄が市内を通り、関越自動車道の前橋インターチェンジを利用することで首都圏とのアクセスも良好である。江戸時代に前橋藩の城下町として栄え、近代以降は製糸業の中心地として発展した。文化面では、赤城神社や臨江閣などの歴史的建造物が残っており、祭りや伝統行事も多く、現代と伝統が調和した街である。

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