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医療・福祉・健康

認知症のひとり歩きをICタグで見守り。隣町とも連携

石川県津幡町

認知症になっても暮らしやすい町へ基盤づくり

石川県のほぼ中央に位置する津幡町は、金沢市から電車で約10分という近さもありベッドタウンとして栄えてきました。それでも、今後は人口が減少に転じていくことが予測され、少子高齢化が急速に進む前に、認知症の人が住み慣れた町で安心して暮らせる基盤を作ろうと取り組んでいます。その一つが、認知症の人が行方不明になった際、ICT(情報通信技術)機器を用いて早期発見を支援する見守り事業です。金沢市など隣接する石川県6市町とも連携し、広域での見守りの輪が広がりつつあります。

携帯する小型ICタグを地域の感知器がキャッチ

津幡町などが導入しているのは、「みまもりタグ」と呼ばれる小型のICタグとタグの感知器などを使った見守りシステムです。

「夫が一人で出かけてしまうと居場所がわからなくなるので、みまもりタグがあると安心できます」。認知症の夫と2人で暮らす女性から津幡町の健康福祉部福祉課にこんな声が寄せられました。

認知症の症状が悪化すると、外出したまま行方不明になることもあり、自宅で同居して介護する家族の負担が大きくなってしまいます。津幡町はこうした家族の負担を軽減し、認知症の人の安全を守る狙いで2021年8月、みまもりタグを使った見守り事業を始めました。事業を担当する津幡町福祉課地域包括支援センターの清水敦子さんは、「みまもりタグの利用は、認知症の方と同居するご家族の安心につながっています」と効果を語ります。

福祉課地域包括支援センターの清水敦子さんと東幾子地域包括ケア係長の写真
津幡町役場に設置されたみまもりタグ感知器と福祉課地域包括支援センターの清水敦子さん(右)、同・東幾子地域包括ケア係長(左)

みまもりタグを使った見守りシステムは、「綜合警備保障株式会社(ALSOK)」が開発しました。みまもりタグは、近距離無線通信「ブルートゥース」の技術を使った小型の発信器です。認知症の人がみまもりタグを携帯することで、地域に設置された感知器が作動して居場所を探す手がかりになります。自宅に感知器を設置すると、認知症の人が自宅を離れた際に家族にメールで通知します。

また、みまもりタグを使ったシステムには、地域全体で認知症の人を見守るネットワークの基盤となる機能があります。スマートフォンに専用アプリケーション(アプリ)「みまもりタグアプリ」をインストールすることで、だれでもボランティアとして捜索に協力できるのです。

ボランティアのスマートフォンが、行方不明者が携帯するみまもりタグを感知して位置情報を提供し、市役所や駅など地域に設置された感知器の情報とともに、捜索の手掛かりとなります。津幡町など石川県内の自治体のみまもりタグ事業を担当する北陸綜合警備保障株式会社営業本部の尾崎仁勇さんは「みまもりタグのシステムは、見守りに協力するボランティアの方の数が多いほど効果を発揮します」としています。

ALSOKのみまもりタグの写真
ALSOKのみまもりタグ。手のひらに収まるサイズで重さは約14g

近隣6自治体で同じシステム利用 越境も大丈夫

ALSOKによると、みまもりタグを使った見守りシステムは全国16の自治体(2024年3月現在)で導入されています。このうち都道府県別では石川県が最多で、津幡町をはじめ、近隣の金沢市、白山市、かほく市、野々市市、内灘町の6つの地方公共団体が利用しています。

石川県内では、金沢市が2019年に導入し、2021年に津幡町と野々市市、白山市、内灘町が続きました。近隣自治体との連携によって、金沢市で行方が分からなくなった認知症の人を、近隣の自治体の駅に設置された感知器による情報で発見できた例もありました。

清水さんは「機器の導入時や認知症施策を検討する際には、近隣の地方公共団体の担当者とオンラインで会議を行うなど情報交換ができました」と広域連携のメリットを語ります。津幡町が導入にかかったイニシャルコストは40万円、ランニングコストは年間33万円で、地域支援事業交付金を活用しました。

ただ、津幡町では、みまもりタグのボランティア数が順調に増えているとは言えず、感知器の設置場所も町内では11か所にとどまり運用面で課題が残っています。「DXだけですべて完結するというような見守りシステムはありません」と、清水さん。地域住民の理解や協力を得るとともに、人手を使うなど他の手段とどう組み合わせるかが工夫のしどころだといいます。

石川県では白山市と野々市市がもしもの時に警備員の方々が駆け付けるALSOKの緊急通報サービスを導入しています。

「認知症サポーター」養成も並行 学校で授業も

「津幡町では、見守りシステムの取り組みと並行して、住民に認知症への理解を深めてもらい、町全体で認知症の人を見守る環境づくりを進めています」と話すのは、地域包括支援センターの東幾子・地域包括ケア係長です。たとえば、認知症の人を地域で支える人材を養成する「認知症サポーター養成講座」は2019年度から2023年度までに計50回開催し、参加者は延べ1,657人に達しました。町内の子どもたちに認知症を正しく知ってもらう授業も実施しています。

認知症について学ぶ津幡町の子どもたちの様子
認知症について学ぶ津幡町の子どもたちの様子

警察庁が2024年7月に発表した認知症の人の行方不明者数は、2023年は1万9,039人に上り、統計を取り始めた2012年以降、過去最多となりました。こうした中、津幡町は、警察との連携も強化しています。認知症の人の状況について、異変を感じたときには、近隣住民が町につなぐことも少なくありません。

東さんは「認知症になるとすぐにグループホームなど施設に入居するのではなく、できる限りこれまでと同じ生活ができるように支えていきます。住み慣れた地域で長く過ごすための施策を今後もDXの活用を含めて探っていきます」としています。

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